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Oct 27, 2007

軽油 2 号 (艦船用) & F-76

海自のインド洋給油騒動をめぐって、突如として「軽油」が各方面で脚光を浴びているようです。

この騒動のせいで (?) 広く知られるようになりましたが、海自や米海軍の艦船用燃料は主機の種類に関係なく軽油です。その話は以前にも、「艦艇の燃料とトマホークの燃料」で書きました。日米とも、現在では重油は使っていません。

つい、先入観で「蒸気タービンなら重油、ディーゼルなら軽油、ガスタービンなら灯油」と考えてしまいます。実際、昔は海自でも 4 号軽油 (高速ディーゼル用)・1 号重油 (中速ディーゼル用)・ボイラー重油 (蒸気タービン用) と使い分けていたのですが、1975 年に「軽油 2 号 (艦船用)」への統一を決定、それが現在まで続いています。米海軍が F-76 (これは NATO 式の名称で、米軍の Mil Spec では MIL-F-16884、旧称 DFM : Diesel Fuel Marine) に統一したのも同時期です (*1)。

問題の燃料、海自では「軽油 2 号 (艦船用)」と呼ばれていますが、基本的には F-76 と同じものと考えてよいでしょう。

日米以外に、NATO 諸国やその他のアメリカの同盟国も、同様の燃料を使っているはずです。でないと、演習なんかでお互いに燃料を融通することができませんし、主機だって同じモノを使っている場合が多いんですから。だから、NATO 諸国から中古艦を購入すれば、これまた必然的に F-76 規格の燃料を使うことになります。

では、これらがどんな燃料かというと。

軽油 - Wikipedia」に、さまざまな軽油の比較表が載っていますが、「軽油 2 号 (艦船用)」は載っていません。基本的には JIS の軽油 2 号 (海自規格の 4 号軽油) と同じものですが、船舶機関規則の関係で引火点を 50 度から 61 度に引き上げたのが、「艦船用」の相違点です (*1)。ちなみに米海軍の F-76 だと、引火点の規定は 60 度 (*2)。

あと、以前に本館で書きましたが、艦艇用燃料の方が民間用よりも長期保管する可能性が高いため、品質の安定性などに関する規定 (*3) が民間用より厳しくなっています。余談ですが、F-76 から長期保管時の安定性に関する規定を除外したのが B-76。半年以内に使うこと、という条件付きで、アメリカ国内の一部で使っているようです (*2)。

こういったあたりの質的な違いが、「パキスタン海軍向けの燃料はハイオクみたいなもん」という答弁につながったのでしょう。とはいえ、民生用の軽油と大きく異なるものではなく、値段が 3 倍も違うなんてことは考えにくいですが。価格差が発生する原因としてはむしろ、輸送費の違いや為替変動の方が大きいのでは ?

*1 : 「世界の艦船」1992 年 10 月号、特集「艦艇用燃料の話」
*2 : Fuel Oil (Global Security)
*3 : Naval Distillate, F-76, Stability Requirement – What Does It Mean? (Word 文書、オレオレ証明書の警告が出る)

 

と、いろいろ調べ回って書いてみたわけですが。もしも不備があったら、詳しい方の突っ込み希望…

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Comments

んと。

3倍という言葉が何故か一人歩きしていて、その根拠となる資料は全くないのが実情ですね。強いて言えば600円という、これまた一人歩きしている根拠有りの数字がありますが、これにしたって1000㍑当たりの価格差、しかも納入形態が違う(船がくるか、それとも港湾で給油するか)程度のもので、全く同一な金額になるわけがありません。それ以前に毎日価格が変動するわけですが。ま、それにしたって価格差としては多くて6%程度じゃないかな。

もっともこの手の金額については、実際のトコ気温も関係してまして、高い気温で給油した場合は膨張した分を割り引いてもらったり多めに給油してもらうといった事もしますが(主に後者が多い)。

Posted by: あっさむ。 | Oct 27, 2007 at 11:06 PM

ですよねぇ。だからこそ、米軍が燃料を発注するときには価格変動の発生を織り込んで「価格修正条項付き」の契約にするのでしょうし。

気体ならともかく、液体の燃料でも気温でボリュームが変わるものなんですねえ。ちょっとビックリ。

Posted by: 井上 | Oct 27, 2007 at 11:22 PM

>>液体の燃料でも気温でボリュームが変わる

 危険物乙四の試験勉強してた時に一生懸命計算しましたよ(笑)。液体の危険物を容器に納める時には、膨張分を見込んで多めの容量の容器にせにゃあかんよ、というわけで。ま、結局試験には出ませんでしたが。

Posted by: KWAT | Oct 28, 2007 at 12:12 AM

油だけにすべった話が多いようで。

ま、我々好き者以外は検証どころか調べる気も気力も無いから
ニュースの枠何秒もらって与党叩ければ良いんでしょうね。
123便の時政府叩きで親父が鼻で笑ってたのを思いだした。

Posted by: なんなし | Oct 28, 2007 at 12:32 AM

>膨張分
ということは、寒いところで満タンにして暑いところに航海したときには燃料が膨張するから… と考えたところで、はたと気付きました。移動している間に燃料を費消しているだろうから、多分、無問題。

>すべった話
誰がうまいこと(ry
好き者同士ですら、今回の一件では燃料の種類をめぐって議論になっていたぐらいですから、それ以外の人なら政治家も含めていわずもがな、であります。ほんと。

Posted by: 井上 | Oct 28, 2007 at 12:43 AM

>液体の燃料でも気温でボリュームが変わる
関係無い話しですが、地球温暖化による海面上昇の最大の要因が、水温の上昇による海水の膨張なんだとか…

Posted by: たまごさんど | Oct 28, 2007 at 04:57 AM

( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー

blog をやっていて楽しいのは、こうやって知らないことを教えていただき、世界が広がることです。

Posted by: 井上 | Oct 28, 2007 at 09:32 AM

>強いて言えば600円という、これまた一人歩きしている根拠有りの数字があります

6000円ですよ。by原口議員

Posted by: JSF | Oct 28, 2007 at 09:51 AM

それって確か、キロリットル単位の金額差の話でしたよね。さんざん既出の指摘ですけれど、リッターあたり 6 円の価格差なんて、そこらのガススタでも日常的に発生してますってば。

Posted by: 井上 | Oct 28, 2007 at 09:52 AM

液体の膨張の話だと、F1でかつてターボエンジンの燃料総使用量規制が有った時、燃料をキンキンに冷して積んだそうです。
で炎天下で燃料が暖められて燃料タンクが膨らんでエラい事になったとか。
(具体的なチームとレースは分からないですスミマセン^^;)
で現在は燃料温度の規則が有りますので、先日のブラジルGPでウィリアムズとBMWザウバーが車検に引っ掛かって失格になるとチャンピオンがライコネンで無くてハミルトンになるのでもめてます。(今の所失格になりそうも無いので、ライコネンチャンピオン確定かなあ)

Posted by: 井上さん二人分の重さの男 | Oct 28, 2007 at 12:44 PM

ああ、それで温度の規定がどうのこうのって話になったんですね。納得です !

そういえばひところ、F1 ではぁゃしぃ特殊燃料が流行っていた時期がありましたね。

Posted by: 井上 | Oct 28, 2007 at 01:21 PM

>液体の燃料でも気温でボリュームが変わる

 これが発電所など、普通の水でも各温度・圧力により非常に大きく比重が変わる時は大問題です。
 私自身が通常扱う最高温度は約270℃、約7MPaですが、このときの液相であっても比重は約0.77程度。実対応の際に換算するのがめんどくさい場合は「8掛け」なんて言ったりします。ましてや蒸気になったら、もう手が付けられません。

 普通は常温に近く、比重が1近い物なら体積表示も重量表示も変化したとしても誤差の範囲で収まりますから、気にしないのですが、蒸気含め高温の場合はやっかいですね。
 高温部では発電所の出力や重量バランス(原子炉水量調整)に直接関わる部分は重量換算として、体積表示と無意識のうちにでもうまく通じるよう、表示の使い分けについては緻密に考慮された物となっていたりします。

 初めてそれに接した際は、水の比重は1との常温での常識から離れられず、頭の切り替えに苦労するのですが、これも物理現象の一つですので、厳しく教え込まれますし。手元には最新の蒸気表
Amazon.co.jp: 日本機械学会 蒸気表〈1999〉: 本: 日本機械学会
http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E5%AD%A6%E4%BC%9A-%E8%92%B8%E6%B0%97%E8%A1%A8%E3%80%881999%E3%80%89/dp/4888980934/ref=pd_bbs_sr_1/249-5837100-6885161?ie=UTF8&s=books&qid=1193555357&sr=8-1
や、簡略化した早見表(手持ちでグラフ化した物など)が手放せなかったりします。

以上、現場からご参考まで。

Posted by: へぼ担当 | Oct 28, 2007 at 04:16 PM

うーん、勉強になります。
ひょっとして、飽和蒸気と過熱蒸気でも差が出たりします ?

Posted by: 井上 | Oct 29, 2007 at 09:18 AM

井上さま>
確かに一時期かなりヤバめな燃料使ってました。ターボ末期はトルエンが主成分だったり、ホンダが3.5リッターV12の頃は特殊燃料アメリカ空軍からハンドキャリーで取寄せたりしたとか。
2輪でもアブガス使っていたりしましたねえ。随分後まで有鉛だったかと。
へぼ担当さま>
確かに難しそうですね。
高地での飯炊き(気圧が低くて沸点が下がって上手く炊けない)の逆で圧力では水は沸点が上がる事は知ってましたが、それの比重とか考慮はややこしそうですね。
間違えたらエラい事になりますからねえ。
そう言えばF1もラジエター小さくする為に冷却水に圧力かけて沸点上げていたかと。ウィリアムズにエンジン供給したいた頃のルノーが最初だったかなあ?

Posted by: 井上さん二人分の重さの男 | Oct 29, 2007 at 07:02 PM

> 飽和蒸気と過熱蒸気でも差
 ええ、水蒸気を水(液相)と蒸気(気相)のmixで捉えるか、それとも別々に考えるかに依りますが。

飽和蒸気:正確には圧力で決まる飽和温度の物。一般的には、少量であっても水(液相)を含むのが普通
(気液二相流では、蒸気中の気相の重量割合を「クオリティ」(<冗談ではありません。真面目な学術用語です)と言いますが、飽和蒸気の場合、これが1未満、つまり液相を持つのが普通です。)

過熱蒸気:正確な定義は基本的に圧力で決まる飽和温度より高い物。飽和温度「以上」だから「過熱」蒸気と言い、余程の特殊例でない限り、クオリティが1となる。

との致命的な違いがあります。気相と液相では重量密度が全く異なるため、数%であっても混合物となれば、その特性(物性値)も大きく異なるものとなります。
 逆に一旦蒸気だけになってしまえば、飽和蒸気の延長線上に過熱蒸気が存在するため、その間に断絶があるわけではありません。要は水と蒸気の混合物なのか否か、その存在比は如何に?というのが物性値として致命的な物となります。

 なお、最近の火力発電所では「超臨界圧(超臨界水)」を採用しており、水とも蒸気とも物性が全く異なる高温・高圧で用いるのが普通です。
 ただ、艦船用のボイラーは過熱蒸気は使用したとしても、「超臨界圧(超臨界水)」の領域を使用しているものがあるか、私自身承知していません。
<恐らく有ったとしても、ごく一部の例外と考えられますが、スペックが分からない以上、これ以上のことは言えません。

 なお、原子力由来の蒸気は軽水炉ではほとんどが飽和蒸気(B&W製のPWRなど、ごく一部で過熱蒸気を作り出す例がありますが、これは例外中の例外です)であり、他の炉型でも過熱蒸気を生み出せる例(高温ガス炉、高速増殖炉など)は少数派です。
 これは主に核燃料の被覆材の健全性に制限される物で、原子力では原理的に過熱蒸気を生み出せないわけではありません。しかし、現状様々な理由から飽和蒸気にとどめておく方が得策と考えられ、そのような炉型が多数採用されているだけのお話しです。

 以上、ご参考まで。

Posted by: へぼ担当 | Oct 29, 2007 at 07:07 PM

有鉛ガソリンで思い出しましたが、昨日、R246 でランボルギーニ・ミウラを見かけたんです。あれ、ひょっとして有鉛ガスだったら、入手が大変だなあと思いました。

>超臨界水
初耳の言葉なので、ちょっと検索してみました。
水は水なんだけれども、一定の温度・圧力の領域に達すると、温度が同じでも圧力変化だけで物性が変わるような状況になる、というモノみたいですが…

うーん、やっぱりまだまだ知らないことだらけ (´・ω・)

Posted by: 井上 | Oct 30, 2007 at 12:59 AM

「圧力では水は沸点が上がる」と言えば
先代のレガシィで純正より高い圧力のラジエータキャップを使用していたとき、ラジエータの循環ホースに穴が開いて、ひどい目にあったことがあります。ボンネットからモウモウと水蒸気が立ちこもり、結局帰宅の高速走行は空冷で帰りました(><
高速を下りて信号待ちの時に空冷が効かず、水温計がぐんぐん上がり車から脱出して一時非難した記憶があります。
原因はホースの劣化+過加圧だと思いますので、今では怖くて純正のままで使っています。
皆様もゴム系パーツにはお気をつけください。

というか、本題と関係無い話ですみません。

Posted by: Tivonix | Oct 30, 2007 at 04:49 PM

けっこういろいろなクルマで、アフターパーツとして圧力引き上げ用のラジエータキャップって売ってますけれど、そんなリスクもあるんですねぇ…

って、よくよく考えれば当然のことで、私が気付いてなかっただけ ?

Posted by: 井上 | Oct 30, 2007 at 07:18 PM

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