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Jan 03, 2008

対テロ戦と洋上哨戒の関係

W05K のインプレを上げようと思ったんですが、それは明日に回して。

インド洋で実施している対テロ洋上哨戒作戦が、実はテロ対策とは関係ないんじゃないか、と主張している人がいるみたいですね。なんでも、「海賊事件といったって、大した事件は起きていない。それなのに軍艦が出ていって洋上哨戒をやるなんておかしい」なんてことを主張しているらしいのですが。

まず、陸の上と海の上に共通する話ですけれど。

テロリストにとって好ましい土地とはどんな土地かといえば、政府のコントロールが効かない無政府状態。もっとも理想的なのは、政府が崩壊状態になっている国です。裏を返せば、治安維持組織がちゃんと機能していて、悪いこと、怪しいことをするとたちまち通報されて警察が駆けつけてくるような場所は嬉しくありません。

ということは、テロリストの聖域を潰して追い込みをかけるためには、各国政府がちゃんと機能する治安維持部隊を擁している必要があります。ところが、「おたくの国の治安維持体制はなっていない。うちが代わりに出ていく」といって他国が乗り込むのは無理があります。そこで、テロリストが好みそうな状況になっている国に対して治安維持部隊を対象とする訓練を提供して、自力で治安維持をできるようにするという考えが出てきます。

その一例が TSCTI (Trans-Sahara Counter-Terrorism Initiative) で、後に TSCTP (Trans Sahara Counter Terrorism Partnership) と改称しました。これはサハラ砂漠周辺諸国が対象。アフリカの広大な砂漠地帯がテロリストにとっての聖域になっているのではないか、という懸念を受けてアメリカが打ち出した構想で、米軍が地元の当事国に対して訓練を施すものです。似たようなことを他の地域でもやっていますね。武器を供与しても効果がないということで反省して、代わりに訓練を施すことにした経緯があります。

陸の上なら、たいていの国に (内容は千差万別ながら) 軍や警察はありますから、それを育成することができます。ところが問題は海の上。IMB (International Maritime Bureau) がまとめている海賊事件の発生状況 (例 : 2006 年版) を見れば分かりますけれど、政府の治安維持能力やシーパワーに限りがある国、あるいは政府が崩壊状態にある国の近辺海域で、海賊事件が多く発生しています。

まともな海軍を育成するには、たとえそれが沿岸警備海軍程度であっても、カネもノウハウも必要です。ところが現実には、それができない国が多いわけです。公海まで出ていって警備行動を行えるような海軍を育成するなんていったら、さらにハードルが高くなります。

だから、まともな海軍力がある NATO 諸国などが中心になって公海上で警備のための哨戒を行い、テロリストや海賊などが自由に往来できる洋上の聖域を塞ぐことには、間接的な抑止効果があるわけです。実際、スリランカの LTTE みたいに、海上輸送ルートを通じて武器を手に入れている反政府武装組織もありますし。

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Comments

 「抑止力」ちう概念が理解できない(またはしたくない)アフォには何言っても無駄ということを、NIFTY時代に散々痛感させられた記憶が。

Posted by: 緑川だむ | Jan 03, 2008 at 09:31 PM

「おまえらだって、警察官が見ている目の前で悪いことをしようとは思わんだろ」っていってやったらどうでしょう。

Posted by: 井上 | Jan 03, 2008 at 09:42 PM

インド洋に海自を送り込む事もまた然り

Posted by: にゃんこ | Jan 03, 2008 at 10:30 PM

そう。これって一種の「割れ窓理論」みたいなもんですから、警備活動に参加するのは、政治的な存在感の発揮という観点からすると、とても意味が大きいんですよね。

Posted by: 井上 | Jan 03, 2008 at 11:33 PM

海上保安庁などの準軍事組織では、駄目なのでしょうか?
東南アジアに行っていますし。
しきしまを派遣しても良いのでは?

Posted by: | Jan 04, 2008 at 07:34 AM

割れ窓については竹島という辛い経験があり、インド洋の話に限りません。海員の安全保護というところから説くしかありませんが。
海保海自いずれにしても、本来業務でないのは確かで、ロジスティックや任務艦船の整備から始めないと仕方ないとは思います。

Posted by: sionoiri | Jan 04, 2008 at 09:22 AM

>海上保安庁
こちらの方が向く場面も考えられるんですが、もともと自国の領海を対象とする法執行機関ですから、大洋で長期間にわたって継続的に任務をこなせる道具立てが揃っているかというと、疑問があります。

ただ、東南アジアで沿岸水域を対象とするとか、どこかの国の海洋向け法執行機関を育成するとかいった任務なら、向いているかも知れません。

>ロジスティックや任務艦船の整備
洋上給油ができる巡視船なんてないですしねぇ…
遠方まで出張って洋上で哨戒できる海軍というと、本物のブルーウォーター・ネイビーに限られるのが辛いところです。

Posted by: 井上 | Jan 04, 2008 at 09:34 AM

なるほど。ソマリアみたいな国なんて沿岸警備を期待できないですもんね。それで、代わりに各国が分担しているけど、沿岸警備隊には遠すぎるので海軍を派遣していると。そこそこの洋上給油能力のある海上自衛隊にはうってつけの舞台だと。

私はお巡りさんの警らに例えれば分かりやすいのかなあと、考えています。「パトロールといっても無関係な人に職質するだけ。たまに空き巣や強盗を捕まえるけど殺人犯を捕まえるのは見たことがない。こんな無駄なことは止めさせろ!」とかナンセンスなこと言う人はさすがにいないでしょう。

Posted by: バグってハニー | Jan 04, 2008 at 01:22 PM

スマトラ島沖地震で救援の軍艦が遊弋するようになったら、マラッカ海峡の海賊が居なくなったそうでw
海猿に海保が東南アジアで海賊と戦う羽目になる話がありましたが、装備や制度の未整備で犠牲者を出し関係者一同深く苦しむことになる話がありました。やはり組織の目的外使用は危険な気がします。
東南アジアに中古の護衛艦を海賊対策で譲渡する、という話をサヨクが批判しています。海賊退治と称して独立を求める少数民族の島をフルボッコにするおそれがあるので、こればっかりはサヨクの懸念もあながち・・・
なあインドネシアw
とりあえず海自がうろうろしておく、というのはなかなかに合理的ですね。

Posted by: 憑かれた大学隠棲 | Jan 04, 2008 at 01:53 PM

>お巡りさんの警ら
それです。法執行機関の人間がウロウロすること自体、抑止効果になるのです。実際、高速道路ではパトカーが赤色灯を作動させながら流しているだけで、みんな走りが大人しくなるじゃありませんか (笑)

>マラッカ海峡の海賊
本文でリンクした IMB の海賊地図、過去のバージョンを見ると、今よりもずっと件数が多いんですよね。

http://www.icc-ccs.org/prc/piracy_maps_2005.php
http://www.icc-ccs.org/prc/piracy_maps_2004.php
http://www.icc-ccs.org/prc/piracy_maps_2003.php
http://www.icc-ccs.org/prc/piracy_maps_2002.php
http://www.icc-ccs.org/prc/piracy_maps_2001.php

2002 年以降、地中海・西アフリカ・インド洋で各国の軍艦がウロウロするようになったことと、海賊の数が減ったことには、まるっきり因果関係がないことはないでしょう。

少し前の JDW でマレーシアとインドネシアの海賊対策の話を取り上げてましたけれど、国が違うと、縄張り争い、メンツの問題、情報共有の問題と、いろいろ難しいことがあるようで…
でも、悪い奴等はそういうところの間隙を突くのだから、隙を見せてはいけないのです。

Posted by: 井上 | Jan 04, 2008 at 02:17 PM

>海洋向け法執行機関
黙々とやっていますよ。
http://project.jica.go.jp/philippines/0121396E0/Data/Newspaper/050602_kaiho.gif
マレーシア
http://www.jica.org.my/japanese/pdf/200604.pdf
一番印象に残るのは「海軍じゃなくて、戦闘部隊じゃない」というのを、理解してもらうのがややこしいとかいうニュアンスの発言ですね。「危険を伴いながらもまず職務質問からはじめる」
フィリピン
http://www.jica.go.jp/evaluation/end/2006/phi_01.html
インドネシア
http://www.nmc.com.sg/2003.10.02.pdf

Posted by: sionoiri | Jan 04, 2008 at 03:27 PM

津波で海賊が物理的に消滅した、という可能性も否定は出来ませんけどねw。最終的には海辺の集落の経済の安定も重要な要素でしょうけど。

http://journal.mycom.co.jp/articles/2005/04/18/jamstec/index.html
>この地域は海賊が多いため、海底の様子もほとんど知られていない状態だったが
海賊問題の意外な弊害ですねえ

海賊も武装船団のようなやつやこそ泥レベルまでいろいろあって、出先の国の海保で対応しきれるかどうか、そういうのも難しいですねえ。

救難の技術指導に関してはメタルカラーの時代に乗ってました

Posted by: 憑かれた大学隠棲 | Jan 04, 2008 at 04:37 PM

>海軍じゃなくて、戦闘部隊じゃない
そうですよねえ。発展途上国では往々にして、軍隊が警察みたいに法執行・治安維持系の仕事をしていたり、警察が軍隊みたいな装備だったりして、両者の境界が曖昧になりますし。

>いろいろあって
強力な海賊だと、軍隊レベルの装備じゃないと対応できない可能性も出てくるわけですけれど、対峙してみないとどんな相手か分からないのが厄介であります。
強力に武装した海賊については、武装テロ組織と同列に扱いたいところですけれど。

Posted by: 井上 | Jan 04, 2008 at 05:35 PM

補給艦を出すのは憲法違反だとかおっしゃる方々もいますが、ISAFに陸自出したりNGOを送る方が確実に血を見る気がしてならないのは自分だけ?

まだ補給艦に護衛付けて出してる方が安全で日本のプレゼンスとしては安い気が・・・

油が高いのに日本の買った油を高くしてる張本人のアメリカにくれてやるのは許せんとおっしゃる方々もいましたね・・・あれって日本が買ってアメリカに差し上げていたんでしたっけ?

ソースは忘れましたがどこだったかはアメリカが調達した油を日本の補給艦が運んでいるって言っていた方もいたような・・・

Posted by: にゃんこ | Jan 04, 2008 at 10:32 PM

> >海上保安庁
記憶モードで申し訳ないんですが、湾岸戦争時、海保の船を出そうって話が出たことがありました。
(戦争だから自衛隊の船は出せないってことで)
そのときは、井上さんが仰るような理由で、派遣は不可能っていう結論が出てました。

たしか、佐々淳行氏の著作に書いてありました。

Posted by: 極東の名無し三等兵 | Jan 04, 2008 at 11:50 PM

>日本のプレゼンスとしては安い気が
こういう場面でこういう言葉を使うのもどうかと思いますが、"show the flag" の費用対効果としてはなかなか良かったんですけどねぇ…

>戦争だから自衛隊の船は出せない
そういえば、そんな話があったような…
常識的に考えれば逆なんですが、「とにかく自衛隊を出したくない」という単純アレルギーのなせる技でしょうか。
ただ、出すなら出すで、きちんと体制や法的措置を整備するべきですけれど。

Posted by: 井上 | Jan 05, 2008 at 05:50 AM

>"show the flag"

費用効果が良いので自分としては大賛成なんですけどね・・・

イラクに行った陸自みたいに宿営地に引き籠もられてしまうより良かったんですが・・・

どうしても、"show the flag"に反対な方々がいらっしゃる様で・・・

Posted by: にゃんこ | Jan 05, 2008 at 07:34 AM

>反対な方々
"show the flag" 以前の問題のような…

Posted by: 井上 | Jan 05, 2008 at 05:35 PM

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