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Jun 17, 2009

戦争の勝ち方とか安全保障学とか

「雑談用」のコメント欄で、あかさたな さんから、こんな質問をいただきました。

http://d.hatena.ne.jp/zyesuta/20080502/1209722404#c
一理あるんだし、もっと日本人は戦争という敵を知らないといけないと思うけど、
ただ、賞賛しているアメリカはその割にイラクとかベトナムでは賢くない戦争をしているような・・・。
井上さんはどう思います?

最初はコメント欄で書こうかと思ったのですが、ちょっと長くなりそうだったので、独立したエントリを立ててみました。

戦争について煎じ詰めると、ある国家などが、別の国家などに対して力ずくで意志を押しつける行為、ということになると思うのですが、そこには 2 つの分類があるんじゃないか、と考えました。

ひとつは「戦闘に勝つこと」。意志を押しつける障害になっている相手の抵抗力、すなわち軍事力をつぶす作業ですね。もうひとつは、「国家に勝つこと」。ここでいう国家とは、政治体制だけじゃなくて、そこで暮らす国民と言い換えてもよいと思います。

まず、相手の国家体制は残したままで戦争に勝つパターンがあります。つまり戦闘に負けて抵抗できなくなって、相手が降参した場合。それによって政体が変わる、あるいは政権が変わる場合はありますけれど、無政府状態にはなりません。この場合、相手の政府がこっちのいうことを素直に聞いてくれれば、目的は達せられます。

ところがもうひとつ、相手の国家体制までつぶしてしまうパターン、あるいは国家体制がないところに乗り込んでしまうパターンもあります。国家体制がまともに機能していないとか、国民からの支持がまるで得られていないとかいうケースも、こちらに入れていいと思います。その場合、国民が支持するような体制をスクラッチしないといけない。

で、アメリカが痛い目に遭うケースって、たいてい後者だと思うのです。政府は機能していたけれども支持されてなかった南ベトナム、わざわざ自分で体制を潰しに行ったイラク、といった具合に。そのようなケースでは、アメリカが昔から抱えている宿痾、つまり民心掌握がヘタという問題が出やすいんじゃないかと考えました。

アメリカの場合、抵抗する相手をうまいこと手なずけて統治したり、秩序を回復したりするのが、どうも苦手みたいなのですね。いうことを聞いてくれる体制が残っていれば、まだしもマシだと思うのですが。そこが「腹黒紳士」のイギリスと違うところですが、イギリスはそれをやり過ぎてパレスチナ問題みたいな置き土産を残すこともあるのが、実にこまりもの。

閑話休題。
実際、イラク戦争を例にとると、イラク軍をつぶす方は鮮やかにやってのけたし、それについてはラムちゃんが主張したことも間違っていなかった。でも、その後の占領統治と国家体制のスクラッチになると話は別で、あちこちで指摘されているように失敗だらけ。まずは地元住民を味方につけて、それと平行して治安の確保や武器の回収をやらないといけなかったのに、後手後手に回ってしまった。

そんなこんなで、戦争について学ぶといった場合、戦争に勝つ方法だけでなく、国家体制や国民をコントロールする方法についても押えないとダメなんでしょうね。なんてことを考えてみたわけですけれど、どんなもんでしょうか。

といったところで、たまたま目下、こんな本を読んでいるところです。

まだ途中までしか読んでいないのですが、すでに知識の断片として自分の脳内にある話を整理して、「安全保障」というテーマについて一本筋が通った考え方を学ぶのにはいい本だと思いました。

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Comments

回答いただきありがとうございます。はてなブックマークでも「日本人は過去から学べない」とか言うのは完全なるステレオタイプなんだろうなあと。
例えば、鉄道事故なら結構過去から学んでやれATSだ、やれホームドアだとやっていますし、改良も過去からの失敗からの改善(カイゼン)だったりしますし。

民心掌握がヘタというなら、なんで日本の統治がうまくいったのかが謎になりますよね。

Posted by: あかさたな | Jun 17, 2009 at 09:14 PM

日本の場合、統治体制が完全に崩壊した訳じゃなかったのが大きかったと思います。

あと、天皇制をいきなり潰すような手荒なマネをしなかったですし。それでも、例のツーショット写真が与えた衝撃は大きかったようですから、天皇制を止めますなんていっていたら、また結果は違っていたかも…

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 17, 2009 at 09:18 PM

戦争に「勝つ」ことは戦争目的を達成する「手段」に過ぎないですしね。
日本は太平洋戦争で「負け」たけど戦争目的は全て達成した・・という意見もありますし。

イラク戦争におけるアメリカの戦争目的というのが今ひとつはっきりしませんが、
911のようなテロの「補給線」のひとつを潰す、ということであれば、
フセイン政権を打倒した段階で一応は戦争目的は達成したともいえないこともないかと。

Posted by: とおりすがり | Jun 17, 2009 at 11:14 PM

日本の場合、親独派から親英米派に切り替わっただけって話もありますねえ。開戦直前までは外交も民間交流もあったわけですしね。

南ベトナムに関しては、そもそもフランスの植民地を解放するってのに乗っかっていればよかったんでしょうけどね。そして無能な味方は有能な敵より恐ろしいを地でいくわけですがw

Posted by: 憑かれた大学隠棲 | Jun 17, 2009 at 11:29 PM

確かに、フセイン政権を潰せば目的達成ですけれど、潰した後には何らかの正統政府 (のようなもの) を作る必要があって、そこでドジったなと。戦闘に勝てば、自動的に戦争にも勝てると踏んでいたのだとしたら、話にならないです。

南ベトナムは、フランスが gdgd にした跡地に入っていって地雷を踏んだ、という側面もあるかも。
ドミノ理論が外れで云々というのは後知恵だからいえることで、これはいうべきではないと思います。はい。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 18, 2009 at 12:07 AM

どうしてアメリカが民心掌握に長けていないかというと、押しつけがましくて、自分たちが考える「理想」とか「正義」を振りかざしすぎるんじゃねぇの、というのが私の考えなのですが。

思うに、彼の国は土地や自然じゃなくて、制度というか政治体制が先行していて (それが人工国家といわれる所以)、それに強いこだわりがあるのが一因なのかなあと。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 18, 2009 at 09:34 AM

現代の帝国は、「敗者を同化させる」力に富んでいたかつての偉大な帝国にもっと学ばなければいけませんね。
日本の占領統治がうまくいったのは、日本の「治められる力」がダントツに高かったから、ということだと思います。

Posted by: KU | Jun 18, 2009 at 05:01 PM

常に、「治められる力」が高い相手とは限りませんからねぇ… 特に中東・アフリカ方面は。
とはいっても、パレスチナ問題の原因になった三枚舌外交みたいなのは願い下げですけれど。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 18, 2009 at 06:13 PM

イラク戦争、どうせ親米国家だった時代の大物政治家とかが出てきてフセインを亡命させて新政権を作っていきなりアメリカと手打ちかな、と思っていたら何もなしにバグダッド突入しちゃったんですよね。この時点でgdgdな戦後は見えていたわけですが、大半のバース党員への公職追放をせず旧政府をまんま継承するって「日本方式」もあったのに、それに教条的に反対した馬鹿がいたそうでポシャったとか。誰か明快に「日本方式」を大統領に説明してれば、それが選択された余地はあったんでしょうけどね

加えて言えば失敗国家への介入は難しいってことが一つ。
そしてボトムアップ的な権力というか部族国家みたいなにをアメリカ人には理解できてないからってのもありますかね。
日本の場合はGHQと地主層の間に革新官僚ってのが挟まってたわけですし、自衛隊のイラク派遣とかでもそういう構造に上手に乗っかった面もあるんだそうで

Posted by: 憑かれた大学隠棲 | Jun 18, 2009 at 07:31 PM

>教条的に反対した馬鹿

それって、どこかの副大統領でしたっけ ?
その新政権作りの失敗と、刀狩りをやらなかった失敗のせいで、どれだけの血が流れたか… って、後からいってみても始まらないのですけれど。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 18, 2009 at 07:52 PM

 クラウゼヴィッツ以来の「絶対戦争」と限定戦争の違いですね。もっとも、クラウゼヴィッツは「フツーは限定戦争になる」としていますが。

 ベトナム戦争の失敗の経験からワインバーガードクトリンを採用し、限定戦争で有利な立場に立つことを基本として湾岸戦争を戦った米国が、その勝利の経験ゆえに「勝利した原因」を放擲して「絶対戦争」に傾倒したように見えます。そして、その方向に推し進めたのは、軍人ではなく政治家だったようにも。

Posted by: 整備兵 | Jun 18, 2009 at 10:26 PM

アメリカに限りませんけれど、勝つと調子に乗って暴走して、次に失敗して、その教訓に学んで以下同文、みたいなループがあるのかも知れませんね。

もっとも、周囲の状況も自国の状況も時々刻々変わっていきますから、過去の成功体験も失敗体験も、そのまま使えないことが間々ありますけれど。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 18, 2009 at 10:39 PM

我が方が勝つことより、相手方が負けを認めることが大事でなんですねえ。
日本の敗戦に於いては負けました宣言を主権者が臣民に布告できたので綺麗にまとまりましたし。
 そしてそういう綺麗な意思統一が成立している国家相手に戦争できるとは限らないというか、失敗国家への介入では望めないのがツライですよね。

Posted by: まひわり | Jun 19, 2009 at 01:38 AM

どうすれば相手が負けを認めてくれるか、それと戦後処理をどうするか、まで見通しを立てないと、戦争を始めちゃダメ。といえるかもしれませんね。

その点、統治主体がない、あるいはまともに機能していない失敗国家が相手では、落としどころが出てこないのが厄介です。
突き放した言い方をすると、そこに住んでいる当事者が「現状をなんとかしたい」という気運を盛り上げないと、どうにもならないわけでして。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 19, 2009 at 10:30 AM

はじめまして。
アメリカは、日本とベトナムに加えて、フィリピンのケースをもっと研究していれば、少しは違う結果になったのではないかと思います。

Posted by: trinh | Jun 20, 2009 at 06:58 PM

そうですね。フィリピンは珍しい成功例ですが、やはりマッカーサーという人の存在が影響していた、という理解でよいのでしょうか。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 20, 2009 at 10:03 PM

私が念頭に置いていたのは米西戦争後の平定戦の方でした(逆にご指摘の太平洋戦争後の方はリプライではじめて気付きました)。

スペイン植民地政庁もアギナルドも居なくなったあと、独立という「先の先の」目標は共有しつつも基本的に個々ばらばらに行動する独立派ゲリラに対して、スペイン時代からの地方有力者を取り込むことで(苦戦しつつ・長期戦になりつつも)制圧に成功したように思えます。

Posted by: trinh | Jun 21, 2009 at 05:05 PM

あ、そちらでしたか。

フィリピンに限らず、「目的は同じだけれども仲間割れしてグダグダ」というのはよくある話ですが。

地元の有力者を味方につけたあたり、イラクで (途中から) 取り入れた方式に通じる部分があるかも知れません。やはり、それをやらないとダメでしょうねえ…

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 21, 2009 at 06:14 PM

> 地元の有力者を味方につけたあたり

問題は、その「有力者」が本当に「有力」かどうか、簡単に判断が付かないところかも知れません。ゴ・ディン・ジェムだって名望家だったことは確かですし、いったんは南ベトナムをまとめ上げました。

また、この方式だと現状に不満を持つ一般大衆を敵に回す可能性があります。フィリピンの場合、フク団は潰せても新人民軍は手強い相手であり続けました。ベトナム戦争のケースだと、少なからぬ場所でベトミン~解放戦線によって有力者の方がパージされちゃいましたし。

Posted by: trinh | Jun 21, 2009 at 10:05 PM

確かにそうですねえ。

ベトナムで踏んだドジのひとつに戦略村構想があると思うのですが。「以前に別の場所で上手くいったから、今度も同じ方法で」というのが間違いの元で、いま直面している現場についての情報をキチンと収集・分析して、目の前の課題に対する最適解を求める、という以上のことはいえないのかも。

新着の JDW でしたか、David Petraeus 大将が「イラクとアフガニスタンにおける状況の違い、治安確保に向けた取り組みの違い」について語っている記事がありましたよ。

Posted by: 井上@Kojii.net | Jun 22, 2009 at 08:50 AM

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