100 隻のタンカー
以前、日経新聞が「米ボーイング社の 100 隻のタンカーが云々」という記事を載せたことがあります。「隻」はフネを数える際の単位ですから、ボーイングが造船業に乗り出したのかと勘違いした人は… いたんでしょうか。少なくとも日経にはいたわけですが。
ノースロップ・グラマンやゼネラル・ダイナミクスはグループ企業として造船所を抱えていますし、ボーイングもジェットフォイルを造ったことがあります。しかし、タンカー (油槽船) なんて造っていたかどうか、と不審に思われても無理はありません。
日常的になじみがある英単語でも、業界によっては意味が違ってくる場合がある、ということを知っておかないと、こういうポカをやります。もちろん、石油類を運ぶ油槽船のことも tanker といいますが、空中給油機も、陸軍が使う給油トラックも、これまた tanker といいます。つまり、件の記事は油槽船じゃなくて空中給油機のことだったんですね。
似たような話は他にもあります。たとえば tank。
tank というと、一般的には燃料タンクや潜水艦のバラストタンク、といった類の、液体を溜め込む場所を連想しますが、戦車も tank です。かつてはいろいろな種類がありましたが、現在では MBT (Main Battle Tank) にほぼ一本化されています。これを「主戦闘戦車」と直訳する場合もあります。イギリスで初めて戦車が開発されたときに、秘密保持のために偽った名称が、そのまま定着してしまいました。
ちなみに、戦闘機なんかが使う増槽は、用が済んだら投棄してしまうので drop tank といいます。つくりつけのタンクと区別しているわけですね。日本語が「増槽」だからといって、additional tank とはいいませんので御用心。
あと、wing。一般的には「翼」のことだと思われている単語ですが、米空軍の組織編制では「航空団」を wing といいます。航空団の麾下に、複数の飛行隊 squadron が入ります。その他の支援部隊もいろいろあって、これらは分野別に○○群 (○○ group) としてまとめられています。運用群 (operations group)、兵站群 (logistics group)、支援群 (support group)、医療群 (medical group) といった具合です。
この group という言葉は、たいていの場合「群」と訳せば間違いありません。
ちなみに、地域別、あるいは任務別に航空団を複数まとめて、航空軍 air force を編成します。空軍そのものも Air Force ですが、航空軍は番号を付けて "1st Air Force" といった具合に呼称するので区別できます。似たような例に、陸軍における軍 (army) があります。これは軍団 corps を束ねたもので、やはり番号で区別します。
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