ハーク墜落
イランで C-130 ハーキュリーズ輸送機が墜落したそうです。
C-130 といえば、戦術輸送機業界の世界標準。あまりにも広く普及してしまったせいで、AFV の空輸展開では「C-130 に積めるかどうか」が基準になってしまいました。それが性能やサイズや防禦力の面で少なからぬ足枷になってしまっているという、この機体を当初に設計した人にとっては甚だしく「想定の範囲外」な事態を引き起こしています。
単に機体そのものが同盟国と共通とかいう話だけでなく、米空軍が使っている空輸用パレット・463L とのサイズが合うかどうか、なんていう問題もあるので、NATO 規格の軍隊に生まれ変わろうとしている東欧諸国では、C-130 の導入事例が相次いでいます。ソ聯製の輸送機だと、463L パレットを積めるかどうかが問題になるわけですね。
もちろん、輸送機といえども軍需物資ですから、アメリカとイランの関係が悪化してから輸出されたとは思えず、パーレビ国王の時代に輸出した機体をそのまま使っていたのでしょう。整備状態なんか、さほど良かったとは思えません。ただ、アメリカ相手には突っ張るイランのことですから、今回の墜落事故を受けて
「アメリカが武器禁輸でパーツを引き渡さないから、墜落しちゃったじゃないか。
我が国の国民の生命を奪ったのだから謝罪と賠償を要求する」
なんてやらかすかもしれませんね (おいおい)。
Comments
>あまりにも広く普及してしまったせいで、
>AFV の空輸展開では「C-130 に積めるかどうか」が
>基準になってしまいました。それが性能や
>サイズや防禦力の面で少なからぬ
>足枷になってしまっているという、
>この機体を当初に設計した人にとっては
>甚だしく「想定の範囲外」な事態を引き起こしています。
使用する戦術輸送機で将来開発される(戦術輸送機での輸送も視野に入れた)戦闘車両のスペックの上限(重量と大きさ)が決められるわけですから、輸送機は戦闘車両の開発に多大な影響を及ぼしますよね。ストライカーもC-130で輸送することが前提でしたっけ。もう少し搭載量があればストライカーやピラーニャIVは一部追加装備を外さすにロールオン・ロールオフできたものを(自衛隊もC-130使ってるけど、C-130に搭載できるピラーニャIVの導入、またはライセンス生産の話しはどうなったのだろう)。次世代戦術輸送機(ATT)ではC-130Hより輸送量を増やすことになりそうですが(ATTは30t程度の搭載量があるとのこと)、今度は製造コストが高すぎるというクレームが議会から出るという落ちが待っていそうな予感がします。F-35みたいに日米(又は国際)共同開発プロジェクトになったりして。
Posted by: 通行人 | Dec 07, 2005 07:54 PM
そういえば、「ハーキュリーズ」という発音ですが、何故に「ヘラクレス」じゃないんだろう。
Posted by: 通行人 | Dec 07, 2005 07:59 PM
ストライカーも FCS も FRES も、みんな「C-130 で空輸可能に汁」といって苦しみ、結局、FRES みたいにこの要求を引っ込めるケースも出てきています。ストライカーや FCS も、も実質的に諦めつつあるんじゃないでしょうか。
もっとも、C-130 を設計した方だって、登場してから半世紀も使われるとは予想してなかったでしょうから、設計者の罪とはいえないのですが。
ちなみに、「ハーキュリーズ」は英語読みで、ギリシア語だと「ヘラクレス」ですね。台湾だと「金剛力士式」というそうです。
Posted by: 井上 | Dec 07, 2005 08:40 PM
>自衛隊もC-130使ってるけど、C-130に搭載できるピラーニャIVの導入、またはライセンス生産の話しはどうなったのだろう。
数年前から対空車両等次世代多用途装輪装甲シャーシの開発に掛かってまして、ピラーニャの導入はちと望み薄の様です、ただ、小松がモワグ社と業務上の提携かなんかをやっていますので、何らかの技術導入は、あり得なくもないのですが、ピラーニャ自身のポテンシャルはそう高くないんで、参考以上のモノになるかどうか、そもそもその装輪装甲車量シャーシが何処まで上手い事行けるかも不明ですし。
(あまり知られていない事ですが、ピラーニャの防御力自体があんまり強化出来ないンだそうで、せいぜい装甲トラック程度なんすよ)
Posted by: ooi | Dec 09, 2005 11:26 PM
>小松がモワグ社と業務上の提携
やってますね。で、清谷氏が JDW で「日本でピラーニャ導入か」と飛ばし記事 (おい) を書いたことがあります。
そもそも、装輪 AFV というのは機動性と軽さが売りですから、そこに強力な防禦力を求める時点で無理が出てきてしまいます。
だから、最近では装甲をモジュラー化して、任務様態に応じて着脱するという方向に進んでいるようです。といっても、限度はあると思うのですが。
Posted by: 井上 | Dec 10, 2005 09:59 AM
>キヨタニ氏
ああ、あの人はとばし記事が大好きですよね、こう言ってはアレなんですが、どの程度兵器に対する理解があるのかも定かではありませんし。
まあ、私もあんまり褒められたモンではないんですが。
さて、ちょっと本題から逸れるのですが。
AFVの設計に於いてモジュラー装甲というのは、ある種の「やってもあんまり美味しくない」やり方なんだそうです、なぜならモジュラー装甲は、シャーシ等構造の強化に資するところはない訳でして、構造上から見たら余分なお荷物にしかならない、と言う事なのです。
その上、その装甲を支持する為のからくりも要りますし、また、そこがウイークポイントになる可能性も高く、機動力を維持するつもりなら、モジュラー装甲そのものをシステムとしての重量に組み入れなければならない為、自然本体そのものの防御力もあまり高く出来ないという羽目になります、単純に付加装甲とした場合、パワーユニットが動かすべき余裕を食っちゃうことになるわけで、そうなると搭載物なり機動力なりが割を食う羽目になります。
何と言うか、良く出来ているなあとつくづく感心する次第ですわ。
Posted by: ooi | Dec 10, 2005 03:05 PM
>ちなみに、「ハーキュリーズ」は英語読みで、
>ギリシア語だと「ヘラクレス」ですね。
>台湾だと「金剛力士式」というそうです。
金剛力士式(笑)。なんか、相撲の技っぽい名前ですね。
>ピラーニャ自身のポテンシャルはそう高くないんで、
>参考以上のモノになるかどうか、
モワグ社といえば生存性が高いという印象があるのですが、メクサス複合装甲やスラット装甲を(ストライカーに)装備させても、装輪装甲車のポテンシャルは装軌式装甲車のポテンシャルに追いつくことは出来ないということでしょうか?
そうえいば最新号の「軍事研究」でサマーワで使用されている自衛隊の車両に関連して、装輪装甲車のストライカーやASLAVにも触れているようなので、興味があれば読んでみてください。
Posted by: 通行人 | Dec 10, 2005 05:28 PM
装甲防禦力とは、基本的には脅威とのバランスというか相対比較の問題ですから、脅威が強まれば、十分だったはずのものが十分でなくなる、ということはあるかもしれませんね。
JDW で装輪 AFV や歩兵戦闘車がらみの記事を見ていると、基本的には 14.5mm の徹甲弾ぐらいまで対応することが多いようです。もともと、歩兵戦闘車とは戦車部隊に随伴する歩兵の運搬役ですから、戦車の掩護を受けられるということが前提だったのでしょう。
ただ、最近では IED や、あるいは RPG みたいな対戦車兵器が強力になってきて、下手すると戦車でも安心できないぐらい。なので、AFV を開発する人にとっては辛い時代ですね。何かブレークスルーがあって、軽量で HEAT 弾に強い素材ができればいいのでしょうが。
Posted by: 井上 | Dec 10, 2005 05:47 PM
そうそう。11/30 付の JDW で、モジュラー装甲を備えたメルカバが ATM を 7 発食らっても兵器だった、という記事がありました。
でも、戦車だからできる話で、重量面の制約が厳しい IFV だと、ooi さん御指摘の通り、同じようには行かないかもしれませんね。
Posted by: 井上 | Dec 10, 2005 05:49 PM
あうー。「兵器」→「平気」。
誤変換なのに、なんとなく意味が通っちゃってるし (汗)
Posted by: 井上 | Dec 10, 2005 05:50 PM
ぶっちゃけ言いますと、ピラーニャ系列自体、50口径級防弾なのは、正面なんすね、生存性が高いと行ってもたかが知れている訳です、側面は、30口径級防弾なんだそうで、ま、コレも仕様の問題でして。
じゃ、モジュラー装甲を付けて防御力を強化しちゃえばいいじゃないか、そうするとね、今度はてきめんに機動能力が落ちる訳です。
まあ、最初から特殊装甲等を取り入れた設計なら何とかなるのかも知れませんが、そうなると今度は全く新規から手を付けなきゃいけない訳で。
ちなみに、軽装甲機動車はもうちょっと防御はマシだし、96式装輪装甲車もかなりマシのようです、コレもひとえに仕様のおかげなんだそうですが、どちらにしても戦車に随伴して戦闘出来る車両ではありません、元々装輪装甲車両にそんな事は普通求めてはないのですが。
また、よく言われる「底面が舟形であるから爆発を逃がしやすい」等と言うのも迷信に近いです、対戦車地雷の類を踏んじゃえば、たいていの装甲車はどかんと吹っ飛んで宙を舞います、足回りだけもげるなんて事はない、結構装輪装甲車ってのは伝説に満ちて居るなあと言うのが、色んな人の話を聞いての私の判断です。
また、装輪装甲車が装軌装甲車に対して優れているのは路上機動能力だけです、それも、何も障害がない場合に限ります、また、装輪であるが故に軽量にまとめざるを得ないし、それ故、必ずポテンシャルの不足に掛かってくる訳です、案外その点数字は残酷なモンです。
Posted by: ooi | Dec 10, 2005 09:17 PM
もともと装輪 AFV 自体、防禦力という点ではハンデがある上に、ピラーニャはさらに設計が古そうというハンデがありますもんねぇ…
最近の奴だと、96 式 (日)、AMV (芬)、Pandur (墺)、MRAV (独/蘭)、SEP (スウェーデン)。開発中の MRAV や SEP はともかく、ここのところの受注実績が多いのは AMV と Pandur の系列ですね。
オランダやスウェーデンみたいに、装軌式と装輪式の二股かけるのが正解 ? 個人的には、装軌式では CV90 が好きです。
Posted by: 井上 | Dec 10, 2005 11:24 PM
装輪式対装軌式、色々な考え方があるみたいですね。M113対ストライカーに限定されていますが、グローバルセキュリティー社のジョン・パイク氏はこのように比較しているようです。興味があればどうぞ。
http://www.globalsecurity.org/military/systems/ground/m113-iav.htm
ところでAPCの部類になると思いますが、南アフリカTechnical Solution Group (TSG)社の装輪のバファローはどう思いますか?良ければ、皆さんの意見を聞かせて頂ければ。
Posted by: 通行人 | Dec 11, 2005 02:15 AM
>オランダやスウェーデンみたいに、
>装軌式と装輪式の二股かけるのが正解 ?
オフロード用(装軌式)とオンロード用(装輪式)のを使いわけるということですか?
Posted by: 通行人 | Dec 11, 2005 02:19 AM
>個人的には、装軌式では CV90 が好きです。
CV90も車体の剛性が以下略って話はありますね、まあ、戦車駆逐車なんてやらせる方が間違っている訳ですが(^^;>120mm砲装備車の話ですよー
>南アフリカTechnical Solution Group (TSG)社の装輪のバファローはどう思いますか?
セールストークだけ聞けばいい車両じゃないかと。
ただ、装輪の呪縛からそう簡単に抜け出せる訳じゃありませんし、そのセールストークには眉に唾を付けて聞く必要はあるでしょうね。
何せ背ェ高いし、装輪だからタイヤの半径程の段差も乗り越えられないし、特殊な仕様をしている訳だから、結構無理をして居るなあと言うのが印象ですな。
まあ、何か装輪式をクソミソに言っているようですが、私がけなすストライカーも現場での評判はそこまで悪くないんです、装甲ハンヴィーよりよっぽど良いと言う褒めようです>褒めているのかという疑問はさておき。
たとえば、そこそこの後方任務であれば、または、装甲トラックであると割り切れば装輪AFVもそう悪いモノじゃありません、正面から戦車とやり合うなんざ愚の骨頂である事に気が付いてさえいれば自然と使い処も決まってくる訳ですから、機甲師団で戦車と共に進撃なんてのはそれなりに重装備のAFVに任せておけば宜しい訳で。
結局、装輪と装軌、使い処さえ間違えなければ問題はない訳です、一つのアイテムですべての問題が乗り切れる訳じゃないと言う事ですかね。
(※その点、前国防関係長官は結構アレだったらしいですが)
Posted by: ooi | Dec 11, 2005 09:43 AM
>結局、装輪と装軌、使い処さえ間違えなければ問題はない訳です、
>一つのアイテムですべての問題が
>乗り切れる訳じゃないと言う事ですかね。
そうですね、自分も装輪式で前線で戦車等を相手に戦わせることには消極的です(一時的にC-130等の輸送機の大量輸送で強襲による前線基地の構築の為に前線で使われることも考えられますが、それ以外では使わないようにするのがベストですね)。個人的な考えですが、使い方は正規軍を壊滅させた後の非対称戦で費用対効果・量産性を活かしながら、他の装甲車が足りない分を生めるような使い方、そして前線という概念が皆無に近い非対称戦で武装勢力が多用する傾向にある小銃、即席爆弾、RPGに対応するような装備をつけてあげれば(例えばストライカーで使用するスラット装甲でRPGを無効化する)、それなりの生存性を確保しながら損害率を最小限にできると思います。当たり前のことですが、装軌式はオフロード主体の任務を中心に使用し、装輪式をオンロード主体の任務を中心に使えば(無論、相手が道路に対戦車地雷を設置したり、障害物を設置することも考えられるわけですが)、双方の特性を最大限に活かすこともできると思っています。同じく、使い処さえ間違えなければ問題はないという点では同意するところです。
C-130の話しをしていたら何故か装輪装甲車の話しになってしまいました。脱線させてすみません。
Posted by: 通行人 | Dec 13, 2005 12:12 AM
最近では関わりの深い両者ですから、いいんじゃないかと。
ドンパチが片付いた後の平和維持部隊なら、装輪車輌でもさほど問題ないと思うのですね。各国が構想している「緊急展開可能な軽装備部隊」も、低烈度紛争とか平和維持部隊とか、敵がさほど重武装していないことを前提にしているわけです。だからこそ、空輸による急速展開を前提にできる。
そういう意味では、今のイラクの状況というのは、これまで考えられてきた枠組みから外れているといえます。ただ、これがレアケースで終わるのかというと、そうとも言いきれないので、その辺で装輪 AFV の弱点ばかりが目についてしまう状況になるのかもしれませんね。
FCS の場合、アクティブ自衛システムみたいなテクノロジーに頼って、軽量化で装甲が弱くなる分を補おうとしているみたいですが、個人的なは疑問です。前に別エントリでも書いたように、アクティブ自衛システムの対処能力には限度がありますから。
Posted by: 井上 | Dec 13, 2005 01:10 AM
脱線は続くよ何処までも(マテコラ
お互い、多分表現は別だけどしゃべってる事は一緒だと思いますんで、
開発関係の人に言わせると、結局仕様の決定に止めを刺すって事らしいです、つまり、どの様な使い方を想定し、その為にどの様な機能を付加していくか見積もる、その辺りがしっかりしているか居ないかで違ってくると。
結局今の装備は正面での正規戦に対応しておけばそれ以下の戦いは問題なく対応出来る(はず)という見積もりに従って行われている訳で、まあ、間違いとは言い難いんですが、それなりに揃えるのが大変である訳で、そう言う事も考えた上で、従来足止め部隊として考えられた軽装備部隊が脚光を浴びつつあるんじゃないかと。
>即席爆弾
いやもう、こいつばっかりは洒落になりませんよね、もう、見つけて解体するしかねえンじゃねえかってぐらい、威力桁違いですもの、こんなのに対応すること考えてたら、それこそイスラエルの戦車改造APCでも追いつきません(^^;。>正直1t爆弾並みのモノがすぐ横で起爆したんじゃねえ、そらどんな車両だって吹っ飛ぶってモノで。
>アクティブ自衛システム
・・・結構あの辺り、米軍って夢抱いてるよなあと思わないでもありません、いや、夢を抱く事自体が悪い事って訳じゃないんですが、装甲車程度のキャパにアクティブ自衛装置を積もうと思うと結構辛いんじゃないでしょうか、電磁装甲とか液体金属装甲とかそう言う愉快な話もまだ漏れ伝えてきてはいるようですが。
>で、さて本題の方に行くと。
何だかんだ言ってC-130も先細りだなあという感じです、C-XやA400Mの仕様はあらかたC-130より余裕を持ったキャパシティを与えられていますし、期待の性能向上型も今一つぱっとしない。
無論、その仕様の上で無理をしてしまったせいでローンチに手間取っているA400Mとか、生産機数がそこまで見込めない為に高価格とのそしりを免れ得ないであろうC-X等、まだまだC-130を乗り越えるには至らないとは思われますが、米軍自身後継を考えている現在、何時代替が成されてもおかしくないんでしょうね。
Posted by: ooi | Dec 13, 2005 10:40 AM
>何だかんだ言ってC-130も先細りだなあという感じです、
>C-XやA400Mの仕様はあらかたC-130より余裕を持ったキャパシティを与えられていますし、
>期待の性能向上型も今一つぱっとしない。
そうですね、C-130J型にしても、重装甲の装甲車も搭載できるように、もう少し搭載量があればという感じです。
>無論、その仕様の上で無理をしてしまったせいでローンチに手間取っているA400Mとか、
>生産機数がそこまで見込めない為に高価格とのそしりを免れ得ないであろうC-X等、
>まだまだC-130を乗り越えるには至らないとは思われますが、
>米軍自身後継を考えている現在、
>何時代替が成されてもおかしくないんでしょうね。
高機能な物を求めると自然にコストが高くなる、そして議会でコストの高さを批判する動きが出るというパターン、C-Xでも起きても不思議ではないですね。C-Xの問題でどさくさ紛れで米国をC-130で埋め尽くしてやると言っている共和党のジョン・マッケイン議員(米軍の頭痛の種?)が何をしでかすことやら。限られた予算で費用対効果を考えなければならいないという現状は何時の時代も一緒なのかも知れません。
Posted by: 通行人 | Dec 14, 2005 09:19 PM