「いい戦闘機になればなるほど、たくさんのユーザー国家が寄ってくるなんて大間違い」という一言にうなずいた私も気がついていた。「そうだ。ジェット戦闘機の進化に国家はついてこられなかったのだ」ということに。第五世代戦闘機は技術的な進化に邁進しすぎたとかいろいろ言われてはいるが、一番の原因は「ユーザー国家に期待しすぎた」のだと私は思う。
第五世代戦闘機が望んでいるのは「質より量」の国家なんかじゃない。敵機をバリバリ撃ち落とす第五世代戦闘機から見て、さらに「予算でも人員の能力でもそれ以外の点でも、機体のポテンシャルよりも上の国家」が好みなのだ。
この好みは、彼女たちの祖先に当たるレシプロ戦闘機の時代から刷り込まれたことなので、どんなに戦闘機が高性能化・ハイテク化してコストが跳ね上がっても、刷り込みからなかなか逃れられない。この世代の戦闘機たちは、「私たちが頑張って高性能の戦闘機になれば、国家ももっと頑張って予算を確保してくれるはず」と期待していた。戦闘機と一緒に国家も成長していくものと信じて疑わなかったのだ。
1980 年代から、西側諸国の戦闘機はソ聯の新型戦闘機を追い越そうと頑張って自分を磨いてきた。しかしユーザー国家の意識は変わらなかった。いきなり「見えない戦闘機」のステルス技術を持ち、「ファースト・キル」のための高性能レーダーとミサイルがついた戦闘機が目の前に現れたって、そりゃ「食いつき」も悪いというもの。
そこで起きたのが「オーバースペック現象」だ。どんどん機種だけは増えていく第五世代戦闘機。周りを見渡すと「三高ファイター」ばかり。高性能、高ステルス性、高威力(例えば空対空ミサイルが優秀、センサーの性能がいい、電子戦装置やコンピュータの性能がいい、ネットワーク化機能を備えているなど) と、3 つ以上の「高」を持っている。
RfP に対してその機体の価格や能力が高すぎると、マッチングは成立しない。例えば対ゲリラ戦用に安くて頑丈な軽攻撃機が欲しいという空軍に、一流メーカーで開発されたスーパークルーズ対応のステルス機が「私、 COIN 機になりたいんです」といって応募してもまず無理。
戦闘機市場でもこの「オーバースペック」が起きているのである。つまり、高性能でピカピカすぎる戦闘機は、「売れ」ないのである。先日、韓国国防省に勤務する某将軍は、「戦闘機は F-15K スラムイーグルぐらいがいいですよね」と言っていた。ユーザーは「自分の手持ち予算の範囲」を超えてしまう高性能戦闘機には、どうも腰が引けてしまうようだ。
「世界の戦闘機の 50% 以上が代替を必要としているんだよ」といっても、第五世代戦闘機たちが「どこ ? どこで買ってくれるの ?」というのも当たり前。お互いに、全く違うところに "棲息" しているのだ、多分。
例えば F-22A が、腕っこきのアグレッサーが腕を振るうノーザン・エッジ演習で「やっぱり実弾のスラマーを撃てる機会は逃せないぜ」などといっている時、貧乏国家たちは MiG-21 を片手に IAI 社のアップグレード・カタログを眺めているのかもしれない。両者の間には、よほどのことがないと商機は生まれない。フランスの国防相が "フランスの女力" を発揮して総当たり戦で売り込みをかけても、ラファールが売れたためしはないのだ。
冷戦崩壊前は、軍事力や経済力で東側諸国と同等または凌駕することに反対する勢力が大量にいなかったので、まだマッチングは成立していた。しかし冷戦崩壊以降、飛行機としての能力、ウェポンとしての能力もすべて兼ね備えた第五世代戦闘機たちが大量出現したが、彼女たちの望む「より頑張る国家」が増えなかった。冷戦崩壊後の戦闘機市場は、戦闘機たちがオーバースペックになり、マッチングがなかなか成立しないのである。
※ちょっと加筆して原文に近付けてみた (青字部分)
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