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Jun 01, 2007

加害者責任の範囲

T-72 神殿で掲載している、「平良夏芽牧師による迷演説『沖縄の飛行場は原爆投下に不可欠の存在だった』 ???」の関連エントリ。

上の記事によると、こんな珍説を説いている人がいるそうです。

広島、長崎に原爆を落とした B29 は、沖縄で給油しているんです。沖縄の米軍基地がなかったら、原爆投下はなかったんです。 (平良夏芽 - 『魂花時報』第 88 号)
いや、それ間違ってますから。

まず、広島の原爆投下に沖縄は関わっていません。長崎にしても、B-29 "Bockscar" が発進したのはテニアン島であって、沖縄ではありません。そして、燃料系統の故障と作戦上のゴタゴタが原因で燃料が足りなくなり、仕方なく沖縄に降りています。といっても、本来なら沖縄までたどり着けるほどの燃料も残っていなくて、それを無理やり食い延ばして、ギリギリカツカツで沖縄にたどり着いたというのが真相です。

平良牧師の主張は、原爆投下と沖縄の基地を紐付けることで「沖縄にも加害者責任がある」というものです。おそらく、その先は「加害者責任の原因となる在沖米軍は出ていけ」と続くんだと思いますが、その加害者責任とやらを主張するにしても、モノにはやり方ってものがあります。

世の中には、この珍説を真に受けて「緊急の補給地としての沖縄があったればこそ原爆投下作戦も可能だったという考え方もできます」と強弁する人もいます。でも、そう主張する割には根拠がどこにも示されていなくて、「私はそう思う」に終始しているのが、なんだかなあ、という感じではありますが。それはそれとして。

爆撃を実施した機体や部隊、あるいはそれを命じた最高司令官 (アメリカなら大統領) に責任がある、というなら、まだ分かります。でも、その機体や部隊が展開していた土地にまで加害者責任がある、というのは暴論もいいところです。
上のリンク先でも、「Bockscar が長崎に原爆を投下した帰りに沖縄に降りた → 沖縄は原爆投下に不可欠だった → 沖縄に加害者責任がある」という三段論法を展開しているんですが、爆撃任務の帰路に予定外の着陸を行った場所にまで加害者責任がある、ということになるとですよ。

ノルウェーに展開したドイツ軍に爆撃を行った英空軍爆撃機の中には、戦闘で損傷してイギリスまで帰り着けないと判断して、そのまま東進してスウェーデンに降りている機体が少なからずあります。敵地に降りるぐらいならスウェーデンに降りて抑留される方が、という考えによるものですが、そうなると、スウェーデンはイギリス空軍によるドイツ軍への爆撃に加担した「加害者責任」がある、ということになってしまいます。
ちなみにそのスウェーデン、第二次世界大戦が勃発した後もドイツに対する鉄鉱石の輸出を続けていましたから、間接的にドイツの兵器生産、ひいては聯合軍兵士の犠牲者を増やすことに加担していた「加害者責任」がある、とこじつけることが可能になってしまいます。双方の陣営に対して「加害者責任」があるスウェーデンって、なんて血塗られた永世中立国なんでしょうか (真に受けないように)。

あと、イラクやアフガニスタンを爆撃した米空軍の爆撃機は、オマーンやカタールを拠点にしていますし、ディエゴ・ガルシアから離発着している機体もあります。するてぇと、オマーンやカタール、そしてディエゴ・ガルシアの住民は、イラクやアフガニスタンに対する「加害者責任」があるってことになるんでしょうか。
おっと、ディエゴ・ガルシアに民間の住人はいませんね (ぉ

日本本土を爆撃した B-29 の中には、帰路に硫黄島に不時着している機体が少なからずありますから、平良牧師の発言を敷衍するならば、硫黄島は日本本土の住人に対する「加害者責任」があることになってしまいます。そんなアホな。

直接の加害者だけでなく、そこに関わった土地にまで加害者責任があるというのなら、私が居眠り運転のトラックに蹴飛ばされて昇天し損なった件については、居眠り運転の運転手だけでなく、そのトラックの会社がある某県某市の住人も加害者責任を感じないといけないんでしょうか。そんなアホな。

平良牧師の珍発言には、こんなくだりもあります。

「ベトナムの人にとって沖縄というのは、癒しの島、海の綺麗な島ではない。ベトナムの人に聞いたことがあります。『沖縄と聞いただけで背筋が凍るほどの、恐怖の名前でしかなかった』と。」
「私たちが銃声鳴り響くファルージャの街に命からがら医薬品を届けに行ったとき、ドクターたちは、『ありがとう』という風には言って下さらなかった。『この子どもの体を吹き飛ばしたのは、あなたの島から来た米兵たちだよ。あなたの島の人たちはそのことをどう思っているのか?』と。」

ということは、北九州を爆撃した 58th BW の B-29 は中国の成都から発進していますから、北九州の住民や八幡製鉄所の関係者は、中国の加害者責任を追及していいことになってしまいます。実際、成都の飛行場建設には現地の中国人労働者が大量動員されていますしね。

と、こんな具合に、間接的な「加害者責任」をでっち上げれば収拾がつかなくなります。それに、そもそも地政学的な条件やプラットフォームの性能に合わせて基地の配置を決めた話について、地元の人間が「基地があることによる加害者責任」を云々するのは、つまりは基地の存在を否定するための詭弁でしかなく、牽強付会もいいところです。

加害者責任を云々するなら、直接手を下した当人 (と、軍事作戦の場合にはその上の指揮系統) にとどめるべきでしょう。それより広い範囲に話を広げても、収拾がつかなくなるだけです。

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B-29-35-MO "Bockscar" S/N 44-27297 (Photo by USAF)

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