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Sep 24, 2007

シリアをめぐる情勢に関するメモ

まだピースがバラバラで、自分の考えもまとまりきっていないのですが、情報を整理する意味で、手元にある関連ネタをまとめてみました。

◎シリア-イラン関係
シリアとイランは 2004 年に包括的戦略合意を締結、経済・軍事の両面で協力するという内容の MoU を取り交わしているが、2005 年暮になって協力関係を深度化、国際社会から制裁を受ける事態に対する備えを盛り込んだ。具体的には、こんな内容。

  • シリアはイランに対して、ヤバい事態になったときにイランの兵器やその他の重要物資、汚染物質などをシリア国内で保管すると申し出た
  • シリアは、Hizbullah に対する武器・弾薬・通信機材の支援を継続する
  • イランは、シリアが西側諸国から経済制裁を受ける事態になったときに経済援助を行うと申し出た。シリア国内の石油関連施設や工場への支援、シリアが制裁措置によって海外と商取引を行えなくなった場合のイランによる代行取引など
  • また、シリアに対する武器・弾薬の提供、シリア軍兵士の訓練、大量破壊兵器に関する装備・技術の引き渡しも申し出た
  • 西側諸国で迫害、あるいは嫌がらせを受けたシリア軍幹部をイランは歓迎する、という意志表明も
  • さらに、シリアで軍事的衝突が発生したときにイラン軍兵士を投入すると表明

実際、昨年にイスラエルと Hizbullah が戦闘を交えたときには、Hizbullah 側にイラン革命防衛隊関係者がいた、という話が伝えられている。

◎シリアで発生した謎の爆発事故
先の秘密協定の絡みで、イランとシリアは Scud B/C/D の化学兵器弾頭付きモデルを共同開発している。このコネクションにより、シリア国内に化学兵器製造施設 5 ヶ所を建設して、いずれも稼働中。
ところが 7/26 に、シリアの Aleppo 北方にある秘密工場でマスタードガスを弾頭部に積んだ Scud C (射程 500km) のテストをしていたときに爆発事故が発生。隣接する研究施設から化学兵器保管施設にかけての一帯で被害が出た。シリア人 15 名とイラン人 数ダースほどの死者が出たほか、爆風で VX やサリンなどの毒ガスが散乱して多数の重傷者が出た。その結果、このプロジェクトは頓挫中。
爆発事故の原因については、シリアの保安部門が調査中。爆発が起きたのが午前 4 時半ということで、まだ夜明け前で気温が低い。そのため、高温に起因する自然発火の可能性は薄く、人為的な爆発ではないかという見方がある。

◎シリアをめぐる核開発コネクション
シリアはもともと、中国の支援を受けて Dayr Al-Hajar に小型の研究炉を設置しているが、これは IAEA の監視下にある上に、兵器グレードのウラン燃料は扱えない。もっと大型の原子炉を購入する件でロシアと 10 年前から協議しているが、具現化はしていない。
ところが、それとは別に、シリア国内に秘密核施設があるという話が出た。半年ばかり前にイスラエルからアメリカに情報が伝わったもので、制裁に直面している北朝鮮が、濃縮ウランの製造を (制裁対象外の) シリアにアウトソースしたのではないか、という話。また、北朝鮮と同様に核開発をめぐって制裁を受けているイランにとっても、濃縮ウランの製造をシリアにアウトソースできれば美味しい話だが、この辺は推測も混じる。
さらに韓国の Yonhap news agency が、シリアのミサイル技術者が北朝鮮で訓練を受けていると報じている。これは 1995 年に両国間で成立したバーター取引によるもので、シリアは北朝鮮に 綿花・食料品・コンピュータを輸出して、それに対して北朝鮮は短射程の弾道ミサイルを輸出するほか、核・ミサイル関連のノウハウを提供する構図。

◎IAF によるシリア爆撃
9/5 にイスラエル空軍機がシリアを爆撃したという話が伝えられているが、これは件の秘密核施設がターゲットだったという話。もしもシリアが核兵器を手に入れれば、イスラエルにとってはおおごと。それと関連するものか、イスラエルは最近、シリア上空に航空機を侵入させて偵察飛行を行っていた、とする報道もある。
当初、爆撃の有無について関係各国はいずれも沈黙していたが、「砂漠に大穴が開いている」「F-15I が投棄した増槽がトルコ国内・シリアとの国境近くに落ちていた」といった話が報じられている。 後者については写真も出回っている。

参考 :
JDW 2005/12/21 "Iran and Syria sign mutual assistance accord"
JDW 2007/9/19 "Israeli attack on Syria linked to secret facility"
JDW 2007/9/19 "Explosion aborts CW project run by Iran and Syria"
DefenseNews 2007/9/21 "Report: N. Korea Training Syrian Missile Engineers"

P.S.
週刊オブイェクトのコメ欄でもいろいろ話題になっているので、トラバ送信。

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Comments

http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070925AT2M2400G24092007.html
IAFの件は本当だろうか?空爆した[ことにして]、現物は手渡しで米国に回ったとか、そうじゃなければ、ライスも↑のNYでの会議に誘わないと思うけど。

Posted by: sionoiri | Sep 25, 2007 01:14 PM

確かに、一方で殴りつけといて他方で和平会議に誘うっていうのも、ちと腑に落ちないものがあります。

この件では、特にトルコ・コネクションを中心としてミッシングピースが多いし、表に出てきている話だけですべてとは思えないので、もうちょっと観測を続ける必要がありますね。

Posted by: 井上 | Sep 25, 2007 01:57 PM

 シリアの原子力開発について情報があったので報告。

おなじみ「原子力百科事典 ATOMICA 世界の原子力発電の動向・中東」より
http://atomica.nucpal.gr.jp/atomica/01070503_1.html
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5.シリア・アラブ共和国
 1998年にシリア原子力委員会(SAEC)はロシアと「原子力の平和利用に関する協定」を結び、ロシアの支援で原子力センター(AERC)を設定するとともに、研究炉(2万5,000kW)を供与することに合意した。また、1999年にはロシアと原子力発電所(軽水炉2基)の建設に関する協定を締結。2001年にはロシアの専門家による建設地点調査や、原子力を利用した海水淡水化装置の開発に関する調査が実施された。しかし、2003年にシリア側は資金不足を理由に同プロジェクトを放棄、原子力発電開発は中断している。
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 上記情報とでは「研究炉(2万5,000kW)」が「ロシアからの供与」か、「中国の支援」かで異なる。

 なお、研究炉で2万5,000kWというと、かなり大型の部類に入る。あくまで私見であるが、学術研究(日本の常陽のように原子炉材料の照射損傷などの特別な加速試験を行わない限り、大きいに越したことはないが、手頃な目安として1万kWが目処)のためと言うより、動力炉の習熟のための側面も大きい(運転経験的に1万kWを超えると、動力炉としての特性が顕著となるように感じる)ようにも見受けられる。

 原文を当たってみない限り一概には言えないが、一般論として、ここまで高性能の研究炉の場合、引用文献の通り「ロシアからの供与」であり、中国の支援はあったとして「主に資金的な物」と考えるのが妥当と愚考する。

 以上、ご参考まで。

Posted by: へぼ担当 | Sep 29, 2007 01:45 AM

ふむふむ。

JDW の記事原文だと、"Syria is operating a miniature research reactor obtained from China in Dayr Al-Hajar." とあるので、これだけだと原子炉が中国から来たように読めます。でも、実は資金だけというのも説得力ありますね。

ちなみに後段部分の原文はこれ。
"A 10-year ongoing negotiation with Russia to acquire a larger reactor has never materialised."

Posted by: 井上 | Sep 29, 2007 02:00 AM

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