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Sep 22, 2007

艦艇の燃料とトマホークの燃料

あまり何回も、同じ blog にネタ元を求めるのもマンネリ化しそうなのでなんなんですが、あまりにもすっ飛んでいて笑っちゃったので。

2、3 日前、何気なく TV をみていたら、補給艦の記録から、やはり自衛隊の補給はイラク爆撃に向かうトマホーク (?) に使われたという事を調べた市民団体の NEWS をやっていました。
なんともやりきれない思いになります。
Posted by あざみ子 at 2007年09月21日 23:55
http://jitoh.seesaa.net/article/56390647.html#comment より引用

ななななんですって、海自の補給艦が給油した燃料がトマホークに。それは大変だー (棒読み

now restarting...

えーと。

BGM-109 トマホークのパワープラントは F107 ターボファンエンジン (最新のブロック IV TACTOM は F415 ターボジェットエンジン) ですから、燃料は航空機と同じです。海軍のミサイルですから、 米海軍のジェット燃料と同じ、ケロシン系の JP-5 (MIL-DTL-5624T) を使っていると考えるのが自然でしょう。 訂正。JP-10 ではないかという指摘を頂戴しました。これもヘリコプター・航空機用燃料の JP-5 と同様にケロシン系、つまり灯油です。

一方、海自が給油しているのは大半が艦艇用燃料で、後はヘリコプター用の燃料が少し (防衛省の公表資料による)。 艦艇用燃料とは、日本でいうところの軽油 2 号 (艦船用)、米軍でいうところの F-76 (MIL-F-16884J) で、 日本における名称の通りに軽油です。これは航空燃料としては使えません。

ヘリコプター用の燃料は JP-5 ですが、 あいにくとトマホークの燃料は発射時に積み込むようなモノじゃなくて、ミサイルを艦に積み込んだ時点ですでに装填済みですから、 海自がインド洋上で給油した燃料がトマホークに積み込まれることはあり得ません。Mk.41 VLS に装填したトマホークに、後から燃料を補給して発射するなんて、物理的に不可能です。

そもそも、OEF が始まった当初ならともかく、ここのところ、 アフガニスタンにトマホークを撃ち込んだことなんてありましたっけか ? アフガニスタン国内の Bagram や Kandahar に飛行場を確保して、そこからハリアーや A-10 を飛ばせるんだから、 わざわざインド洋から何時間もかけてトマホークを飛ばすような、そんな迂遠なことをする理由も意味もないんですよ。 そんなことやってる間にターゲットがどこか行っちゃうから。

(以下、2007/9/22 19:47 加筆) この辺の事情はイラクも同じです。OIF の戦闘行動が終わった後はもう、Balad を初めとするイラク国内各地に米空軍の戦闘機や米陸軍の攻撃ヘリがいるんですから、トマホークなんか撃ち込む理由はありません。さらにいえば、昨今のイラクにおける戦闘様態にはトマホークはオーバーキルで使えません。ヘルファイアですらオーバーキルっていわれてるのに。

余談ですが、タジキスタンの Duchanbe に駐留しているフランス空軍のミラージュ 2000D×6 機と ミラージュ F1×3 機が、アフガニスタンの Kandahar に配置替えされることになっています (JDW 2007/9/5 "France plans build-up in Afghanistan")。

というわけで、ガセネタに騙された気の毒な人が一名、というお話でした。

追記 (2010/9/27)
なぜか spam コメントがこのエントリに集中するので、コメント受け付けを切りました。

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Comments

マズイ・・・あまりに可哀相な人々を立て続けに見せられて涙が止まらないや・・・

Posted by: にゃんこ | Sep 22, 2007 01:02 PM

 あははのは。
 海自の補給燃料は商社調達とのこと。つまり、彼らの基準では、日本国内で我々が使っている灯油と何ら変わりない(実際の精製所などは異なりますが)わけですので、同じ燃料を使う灯油ストーブの使用を禁止しなければなりませんね!
 とりあえず灯油の代わりにガソリンを入れてもらいましょうか。良く炎上しますよ。<激しくマテ。
 と言う炎上とのオチが付いたところで一つ。

Posted by: へぼ担当 | Sep 22, 2007 01:39 PM

 “市民団体”がオナ●ーこいてるぶんには構わないんですが(我が国には「言論の自由」「思想の自由」がありますからね!(゚∀゚))、なによりもそういうデマを何の批評も批判もなしに垂れ流すマスコミに腹が立ちますよ。思考停止するのは“市民団体”のレベルまでにして欲しいですよまったく。(´ー`)フウッ

Posted by: KWAT | Sep 22, 2007 01:49 PM

>灯油の代わりにガソリン
これ、たまに石油ストーブでやって、ブログどころかリアル炎上になる人がいるんですよね。
他にも、「軽自動車だから軽油を入れた」なんていうギャグみたいな話もありますけれど…

それでも、スピンドル油で天ぷらを揚げて喰うよりいいかも (よくありません)

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 02:01 PM

ちなみに、「軽油 2 号 (艦船用)」は、普通の「軽油 2 号」よりも少しばかり、引火点が高くなっています。

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 02:02 PM

>というわけで、ガセネタに騙された気の毒な人が一名、というお話でした。

 やだなあ、井上さん、それは余りにも一方的なモノの見方ですよ(を

 自分の見たい事実を探してそれにあったモノが見付かったモンだから、考証不要とばかりに取り上げてふふん、アタシは今正しい事実を知ってしまったのよんとばかりに脳内麻薬で幸せに出来上がってしまった人を気の毒と言ってはいけないですね、本人主観では立派に出来上がって幸せなんですから、酔っぱらいと一緒で(ナニゲに酷いこと言っているような気がするのは気にしない方向性で。)

 だから

「自分が収集可能な限界内の情報で整合性が取れたので幸せになったと観測されている人」程度にしておいた方が良いですね(ソレはソレで酷い話だ)。

Posted by: ooi | Sep 22, 2007 02:05 PM

な、なんとゆーことを…
こういう形の「幸せになる方法」もあるんだなあ、という妙な感心の仕方はありますけれど。

元の話に引き戻すと、ジェットエンジンは灯油で動くというのを知らない人は案外と多くて、ガソリンだと思われている場合が少なくないようです。

NG ワード : JP-4

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 02:29 PM

私がいた陸軍基地には航空機がいないのに燃料庫に航空燃料があり、たまに遠隔地展開するヘリ部隊が給油に立ち寄ってましたなぁ。

何機もチヌークとか降りてくるとビビりますよ。

Posted by: にゃんこ | Sep 22, 2007 02:55 PM

きっとこのトマホークは発射された後情報収集して近海まで戻って着水するUAVなのですよ
と言うネタを誰かが展開すると思っていたのに残念です(待て

Posted by: 遊び人 | Sep 22, 2007 03:09 PM

こっちのトマホークなら燃料が要らないので、海上自衛隊も無関係っ♪
http://www.americantomahawk.com/

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 03:23 PM

>こっちのトマホークなら燃料が要らないので
ああなるほど、米艦隊にはゲッタートマホークとかヒートトマホークとかが配備されていると(マテ

ところであちらのブログでもコメント欄でツッコミが入っていましたが、それに対する返答が斜め上でした。

>あー私も確かにミサイルは固体燃料な筈だなーと感じてましたlol

マテ、ちょっと待ってくれ。
私も軍事について詳しくはないのだが、今時固体燃料使用の攻撃ミサイルってありますのん?

Posted by: oneeye | Sep 22, 2007 04:54 PM

>ゲッタートマホーク
いっそのことゲッターロボを (年がばれる)

閑話休題。
数からいえば固体燃料の方が圧倒的に多いですよ。ターボジェット、ターボファン、ラムジェットを使っている場合は液体燃料ですけど、それでもブースター・ロケットは固体燃料ですし。

ていうか、そういうところを問題にしているんじゃなくて、いい加減な情報をばらまく団体は信用ならないっていうところが "重心" なのに、話題を逸らそうとしているのがミエミエの回答がきましたね (笑)

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 05:17 PM

えっと。ケロシン系は間違いないですけど、誘導弾用ジェットエンジンにはJP-10を使用するのではないか、と。

Posted by: あっさむ。 | Sep 22, 2007 06:48 PM

ヾ(゚Д゚ 三 ゚Д゚)ノシ アタフタ

慌てて調べてみました。MIL-P-87107 ですか。
High Density とか Fuel-Rich とか書いてあるから、燃焼に使う成分の比率を上げた燃料ということでしょうか。ミサイルだとガタイが小さいから、効率の良さが求められる… ?

罪滅ぼしに、参考サイトのリンクを張っておきます。
http://purvisbros.com/afi/modernmilturbinemissle.htm

JP-10 ということならなおのこと、海自が補給したヘリコプター用の燃料とトマホークは関係なくなっちゃいますね。

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 07:11 PM

量産して安くなっているとはいえ一発1億前後するトマホークをバコバコつかうんでしょうか?
最近のVLSって自分で装填できないタイプが多いとも聞いたような。
港からぶっ放せば補給の問題は解決しますが、それだったら地上からぶっ放したり航空機で運んで落したりすればいいような気も。
航空機の燃費と比べるとどっちがお得なんでしょうかね。
航空機だと落とされるリスクと言う変動要素の算定もめんどくさそう

Posted by: hage | Sep 22, 2007 08:25 PM

> 燃料
 「Net Heat of Comb」の項でJP-9(obs)とJP-10を比較すると大差ないため、同じくHigh Densityなのでしょうが、JP-10のViscosityの低さが目にとまりますね。
 これらのことは門外漢なのですが、JP-10以前は使用時に希釈剤などを混合していたのでしょうか?お詳しい方の解説希望です。

Posted by: へぼ担当 | Sep 22, 2007 08:28 PM

>バコバコ
敵の防空網が強力で、有人機を迂闊に送り込めないときには糸目を付けずに使いますね。でも、OIF の開戦劈頭ならいざ知らず、今はそんな必要はないです。

それに、1,000lb 弾頭じゃ威力ありすぎですし、有人機の方が柔軟性と即応性があるし。TACTOM になってデータリンクがついたとはいえ、やはり有人機の方が使いやすいでしょう。

>JP-10
JP-9 と比較すると、引火点は高く析出点は低い ?

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 08:36 PM

> 罪滅ぼしに、参考サイトのリンクを張っておきます。

覗いてみました。 表には"Navy Sea Launch Cruise Missile" 用としてRJ-4が示されていて、JP-10は"Air Launched Cruise Missile"用となってますが、トマホークはRJ-4を使ってると言うことで良いんですかね?

完全にシンセティック燃料ってところは、ちょっと驚きでした。

Posted by: H@tokara | Sep 22, 2007 08:56 PM

ちょいとググってみました。

http://www.harpoondatabases.com/Encyclopedia/Entry256.aspx

によると、AGM-84 ハープーンの場合、A 型から C 型になったときに JP-5 から JP-10 に燃料を変更して、射程を伸ばしたとあります。ハイデンシティの合成燃料を使って効率を上げた成果、ということでしょうか。

Posted by: 井上 | Sep 22, 2007 11:04 PM

> JP-5 と同様にケロシン系、つまり灯油です。

http://purvisbros.com/afi/modernmilturbinemissle.htm
に示されていた組成を見る限り、JP-10はほぼ100%のExo-tetrahydrodi (cyclopentadiene)ですからケロシン系とは言えないのでは? もっとも、

> JP-10 ということならなおのこと、海自が補給したヘリコプター用の燃料とトマホークは関係なくなっちゃいますね。

という結論には、無影響ですけど。

Posted by: H@tokara | Sep 23, 2007 09:33 PM

Σ(゚д゚lll)ガーン
詳しい方の突っ込みを募集します (をひ)

Posted by: 井上 | Sep 24, 2007 10:18 AM

たぶん、キティホークと書きたかったのでは?

ホーク違いですね。

Posted by: バグってハニー | Sep 24, 2007 11:10 PM

なんか、コメントがちゃんと反映されていなかったみたいですね。編集モードにして保存したら反映できました。鯖が重かったんでしょうか。

>キティホーク vs トマホーク
うーん、いわれてみればそんな気もします。

そういえば、カーチス P-40 ってトマホークだったりキティホークだったりしますね (違)

Posted by: 井上 | Sep 24, 2007 11:58 PM

すいません。お手数おかけしました。

>>OIF の戦闘行動が終わった後はもう、Balad を初めとするイラク国内各地に米空軍の戦闘機や米陸軍の攻撃ヘリがいるんですから、トマホークなんか撃ち込む理由はありません。

ソース発見↓
http://72.14.209.104/search?q=cache:5TOOeYCZ8OcJ:www.cusnc.navy.mil/Orders%2520to%2520Command/pages/oif.htm

2003年3月19日から4月3日の間に800発以上のトマホークが発射され、なおかつその半数近くの380発は3月21日の一日で消費されているとのこと。直接的な証明にはなりませんが、トマホークは戦端時にしか用いられていない、つまり継続的には使用されないという傍証になるでしょう。

ちなみにこのページはいわゆる"消えた"第五艦隊のホームページで、この手合いの人が海上自衛隊がやれキティホークだ、やれイラク戦争だに給油していたと非難するソースとして用いているやつです。

日本が給油したのはF76燃料と書いてあんじゃん!!ちゃんと読めよな。

Posted by: バグってハニー | Sep 25, 2007 01:41 AM

ひょっとすると、「F」で始まってるから「F76」を戦闘機の燃料のことだと勘違いした… って、さすがにそれはないですか。

Posted by: 井上 | Sep 25, 2007 12:01 PM

詳しい人じゃないのですが、ググって調べた範囲で分かったことだけ。

トマホークのジェット燃料
RJ-4(TH-Dimer fuel)を使用するようで、JP-10では無いようです。

燃料の系統
RJ-4の成分はほぼ100%のTetrahydromethylcyclopentadiene dimerなので、JP-10同様、合成燃料でケロシン系ではありません。

JP-9/JP-10の相違
粘度の差よりも引火点の差が大きく(JP-9 21℃ / JP-10 55℃)取扱上の安全性が向上したということではないかと思いますが、変更理由に直接言及したソースは見つかりませんでした。 なお、RJ-4はJP-10に比べ粘度が高めですが、引火点が60℃以上であることを米海軍が要求しているために、こちらが選ばれているようです。 海軍のレギュレーションそのものを見てないので、もしかしたら別の理由もあるのかも知れません。

燃料の選定については、燃料熱量、引火性、粘度(特に低温時)、燃料系統に使用するポリマーへの攻撃性、毒性等々、色々な要素が考慮されるようですね。


情報源は
http://purvisbros.com/afi/modernmilturbinemissle.htm
http://en.wikipedia.org/wiki/BGM-109_Tomahawk
http://en.wikipedia.org/wiki/TH-dimer
http://www.freepatentsonline.com/4427467.html
http://www.patentgenius.com/patent/4410749.html


p.s. なんだか、今更なタイミングになってしまって恐縮です。

Posted by: H@tokara | Sep 26, 2007 04:22 PM

うわー、詳しい解説をありがとうございます。

低空を飛行するトマホークが、粘度の高い燃料を使うのは… 問題ないですね。地表の方が気温が近いから。
これが空軍の戦略爆撃機だと、成層圏の長時間飛行に耐えられないといけないということで、それが確か、JP-4 を使う理由のひとつになっていたと記憶しています。

Posted by: 井上 | Sep 26, 2007 05:59 PM

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