極限の設計と逆噴射
いま、N700 系の 40A で東京に向かっているところです。なるほど、トンネルを走っているときの揺れが、従来よりも少なくなっている感じがします。内装もよくなりましたね。先頭部はどうもブサイクに思えますけれど、環境対策優先だから仕方ないのかなあ…
揺れという点で対極にあるのが 300 系。トンネルで激しく揺れるのは以前からのことですけれど、トンネルに入る度に車体がミシミシと軋むのって…
300 系では 270km/h 運転のために突き詰めた軽量化設計をやり、その際に揺れや空調の効きなど、いろいろとネガが出ました。そこで、問題点をつぶして快適性の側にベクトルを引き戻したのが 700 系や N700 系、と位置付けられると思います。
最初のチャレンジとして極限の設計をやったという点では、300 系は 209 系と似たところがあるかも、なんてことを考えてみた次第。209 系も、その後で改良型の E231 系や E233 系につながっていくわけですし。
最初に理想を突き詰めてみたけれど、後になって不具合や周辺状況の変化で揺り戻しが生じるのは、鉄道に限ったことじゃなくて、戦闘機でも企業経営でも何でも同じ。F-16 や F/A-18 なんか、当初の LWF としての理想はどこへ行ったんだ、って感じですけれど、マルチロール化したから生き残ってこられたのも事実ですし。
何事も、設計するって難しいですねえ。
Comments
確かに設計は難しいでしょうね。
将来の事考えて余裕持たせる考えも有りますが、そればっかり考えて中途半端な物出来ても困りますし。
将来の予想も難しいです。例えば、爆撃機にしてもB-52なんて子供の頃には今頃B-1(当時はB-2はまだ無かったかな?)に取って代わられて退役していると思ってましたけど、後30年位使用する予定だとは…
Posted by: 井上さん二人分の重さの男 | Jan 02, 2008 08:26 PM
ロボコンでのお話。
ある大学の自動マシンは、足回りを共通化したり前年度の大会で
使用した物の流用をしたりして、マルチロール化を図ってきました。
一方の別の大学の自動マシンは、各大会ルール毎に作戦に合わせたマシン設計をして出場していました。
ここで問題となるのは、どうしたら楽に出来るかです。
マルチロール化はパーツを共通化することによって、高い汎用性と整備性を誇りますが
一方で土台に乗せるものに対しては、制限を受ける事により下手すれば器用貧乏になる可能性も秘めています。
逆にそれぞれ専用設計にした場合、汎用性と整備性に関してはパーツ交換において泣く事になりますが
それぞれ最適な格好で動くことが出来るので、勝負にも強い形になり易くなります。
結局のところ、自分達に見合ったバランスが取れていなければ
お話にならないので、選ぶ人のセンスに頼ると言うオチになります。
そういう点では、あらゆる製品に対しても同じことが言えます。
最終的に器用貧乏になりかねない物だけは、絶対に避けるべきですね。(特にF-35は器用貧乏の典型的な悪い例)
Posted by: SCARFACE1 | Jan 02, 2008 08:38 PM
そういえば、オヤジが健在だった頃のホンダも設計思想は似通っていたような……。
最初は極限の設計をしなければ実現できなかった事も、その内普通の設計で実現できるようになったという基礎技術の発展も無視できませんね。大昔はF-1でしか出来なかった事が、今ではカローラでも出来ますから。
Posted by: 五月原清隆 | Jan 02, 2008 09:56 PM
> 設計するって難しい
「運用思想を込めた設計」の難しさという点で同意します。
鉄道や戦闘機、企業経営などもそうですし、私の専門分野でもそうです。
新しい物を作る際は、それまでの様々な経験(失敗反省込み)から慎重に慎重を重ね、「実績は完全に立証済み」のものを選択していきますが、それでも初号機では思わぬところで引っかかり、トラブルを解決しながら進んでいく物。
もちろん、私の専門分野では、細かなトラブルは別としても、間違いは絶対に許されませんから、後続号機については潜行号機の教訓を最大限生かして再設計・運用されて安定した物となるよう努力を積み重ねていくわけで。
最初にねらった物が出来ればベストですが、こうした地道な努力の積み重ねこそが、信頼性ひいては安心を担保しているのだと、痛感しながら仕事をしている毎日です。
Posted by: へぼ担当 | Jan 02, 2008 10:00 PM
>B-52
絶対的な性能はたいして良くなくても、さまざまな任務様態に柔軟に対応できると長持ちする、という見本かと愚考します。
最近では、B-1B もなかなか頑張っていると思いますけれど。
>F-35
もちろん「妥協の産物」なのは間違いないのですが、他に選択肢があったかというと、それについては私は否定的なのです。別々の機体を開発して最適化するためのコストや労力、リスクと、統合化することによるコストや労力、リスクを天秤にかけた結果なわけですし。
ただ、とてつもなく高い次元の妥協を実現しようとしたせいで陣痛がひどい、ということじゃないかと。
>ホンダ
ホンダの場合、基本的に「エンジン屋」の発言力が強かったことの影響が大きかったんじゃないかと思います。
あまり関係ない話ですが、佐藤正明氏の「ホンダ神話」は、なかなか面白い本です。
>地道な努力の積み重ね
そうなんですよね。前に本館で書きましたけれど、何もチャレンジしなければリスクは減らせます。でも、それだと進歩がない。大ジャンプを目指してチャレンジを抱え込みすぎると、プロジェクトが炎上する。小さなチャレンジを積み重ねてスパイラル開発できればいいけれど、常にその手が使えるとは限らない。
うー。
Posted by: 井上 | Jan 02, 2008 10:18 PM