いわゆるレーダー照射事件に関する私的推論
よくよく考えると、これから紙媒体で「字」にして、それが世に出るのを待っていたら時間がかかりすぎるなあ。ということで、自分なりにいろいろ推測してみたことをまとめて、ここで書いちゃうことにしました。
まず、「射撃管制レーダーの照射は以前から行われていて、公表していなかっただけ」という話が出てきてます。
これが事実だとすれば、過去に何回も同種の事案があったわけで、中国側としては一種のチキン ゲームを仕掛けてきていたのではないかと。日本側がそれに釣られて一発撃てば、中国側にとってはプロパガンダの大勝利。そこで日本側が釣られなくても、日本側が公表しなければ失点にはならないし。
しかも、レーダー照射を仕掛けたフネの艦長あたりが「行き脚がある」といっていい評価をもらっていたとしても、不思議はなさそう。
ところが今回、日本側が「射撃管制レーダーの照射があった」と公表してしまった。
米軍が過去にイラクで、確かサザンウォッチ作戦をやっていた頃に「レーダー照射があった」という理由でイラクの防空施設を爆撃した事例があったような気がしますけれど、その考え方を敷衍すれば、「中国艦が海自の艦に戦争一歩手前の行為を仕掛けていた」という話が露わになってしまった格好。
そうなると中国としてはストレートに「やってました」と認めるのは対外的にまずいので、中国外務省の報道官は (真偽の程はともかく) 「知らない」といわざるを得ないだろうと。もちろん、軍の現場が勝手に暴走した可能性、あるいは党と軍が外務省をスルーして仕掛けていた可能性もありますけれど。
そこで気になるのが、日本側で「確認に時間がかかった」といって 6 日も後になって公表したこと。もちろん、本当に確認・裏取りに時間がかかったのかもしれないけれど、高性能の ESM を備えた護衛艦でしかるべき脅威ライブラリを持っていれば、照射された瞬間にレーダーの機種ぐらいは分かってても不思議はないでしょう。
となると、「確認云々」は名目で、実はタイミングを計っていたのかも知れないなと思った次第。
ちょう、先日に公明党の代表などが訪中してましたけれど、そうやって「事態の沈静化に向けて対話のシグナルを送った」という形があった。その後で射撃管制レーダー照射の話を暴露すると、「日本側は沈静化のシグナルを送っていたのに、中国側は喧嘩を売ってきた」という形ができてしまう。
そのこともあって、中国としてはどのように失点を抑えて切り抜けるかであれこれ思案していて、それで現状みたいな反応になってるのではないかと。
と、ここまで書いたことはあくまで私の推測なので、本当かどうか知りませんよ。でも、これぐらいのことがあっても不思議はないかもなあ、と。
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Comments
「統率の取れない軍を抱える、中国共産党や中華人民共和国のご苦労がしのばれます。正統政府として北京政権を支持します。」
そういう洒落が聞かれ無いのは、残念だ:-p
Posted by: sionoiri | Feb 07, 2013 07:44 PM
>sionoiriさん
それを言っちゃうと、今度は何をやっても「軍部の暴走ですから(テヘペロ)」という言い訳を許すことになりますけど、いいんですか?
Posted by: いーの | Feb 08, 2013 08:55 AM
なんにしても、党が党の私兵 (といっちゃっていいのか ?) をコントロールできなくなったら、それこそ大問題なんですよね。解放軍が「東方の些事は当方に任せられたし」なんていいだしたら…
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 08, 2013 10:51 AM
>「東方の些事は当方に任せられたし」
えーと、小沢さんのことですか?(゚∀゚)
Posted by: KWAT | Feb 08, 2013 03:19 PM
些事といえば、某秀才参謀殿に決まってるではありませんか。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 08, 2013 05:04 PM
>テヘペロ
党と行政府が、軍を指導した通りです。 < きゃぁー野蛮
党と軍がやった事で、行政府は知りません < そんな国に基地は貸せませんよねぇ
軍が勝手にやった事で、党と行政府は指示してません < 本当に正統政府?
日本の自作自演です < イマココ
予定調和だけど、その前に、海外で懸念を疑念をもう少し掻き立てる、隙があったのになぁ。また、北京のペースだ。
Posted by: sionoiri | Feb 08, 2013 07:40 PM
>ちゅん顏
http://www.fashionsnap.com/the-posts/2013-02-05/chun-kao/
「彼処は中国のEEZだから、入り込んできた自衛隊が悪い、自衛権の発動だ !」
こういう説明で押し切られる前に、もっと、ネタにしておかないとね。
結局、日本はアヒル口で、声が届かない。
Posted by: sionoiri | Feb 08, 2013 08:07 PM
恐らくむらさめ型のNOLQ-3が捜索レーダーとは違う周波数と周期の電波を受信したのは事実でしょう。
しかし公表が前提なら、「本当にその電波が射撃指揮レーダーか」という確認には時間がかかると思います。
ここで間違えたら自衛隊のELINTは赤っ恥ですし、実際の自衛隊のELINTを相当推察されるかもしれません。
確証はありませんが豊富な情報を持つアメリカ海軍に問い合わせたため6日もの時間が必要になったのではないかと。
Posted by: | Feb 08, 2013 11:37 PM
「射撃管制レーダーを作動させた」まではその場で把握したけれども、仰る通りの「念を入れての確認」、さらに動作モードまでがっちり確認しようとして (単に "塗った" だけなのか、それとも本気でロックオンしていたのか、とか) 時間がかかった、ということかもしれないですね。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 09, 2013 05:55 AM
対する中国側は、当初は「射撃管制レーダーの使用は一般的」で押し切ろうとしたものの、さすがに無理があると思ったのか、日本側が国連憲章を持ち出したからなのか、はたまた軍が「自分らを悪者/道化にするな」と噛み付いたのか。ともあれ、最終的に前言をなんとなく翻して「私はやってない」路線で押し切ることにしたのかなー、と。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 09, 2013 06:08 AM
この件、完全に後付けになっちゃうんですが、画像として情報を持ったからこそ公表したのは無いでしょうか。
嫌な話、かなりの頻度で中国側から電波(レーダー、イルミネーター)照射は受けているでしょうから、既に。
ここまでオープンインテリジェンスに持ち込むのは、かなり分があるから、なのでしょうね、何せ電波では「証拠は」と言われたらオシロスコープとか持ち込まないとなりませんし。
Posted by: ぼろねこ2k | Feb 10, 2013 08:44 PM
もちろん、それはそうだと思います。追い込む証拠もないのに強気に出たら、後で物笑いの種になりかねませんし。
ただ、追い込むのはいいとして、対話のチャンネルも残しておかないと。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 10, 2013 09:39 PM
>対話のチャンネルも残しておかないと。
これって今更ながら重要ですよね。党・政府・軍とあって、団派・太子党・上海閥とかいろいろあるし、政府も軍もセクションや地域によって違うし。
素人考えでは、比較的まともな団派と協調して双方の無責任な連中を抑えつつ、共存体制を模索するのがいいとは思いますが、東シナ海ガス田みたいに合意しても守るつもりもないし、団派が他派閥を抑えられないのであれば当事者資格もないわけで、そうこうしているうちに主導権を失ってしまって、習さんがいろいろやり始めっちゃってる状況ですし。
日本の保守本流が復活したので、こちら側の用意はできているのであとは向こう側がどうするのかしたいのかではないでしょうか?
でも、中国の接近阻止・領域拒否戦略って射撃管制レーダーの照射も含めて、他国艦船に対して嫌がらせをとことんやりつくして公海を自国領土化するのも入っていると考えると、日本だけではお話にならないかもしれませんね。
Posted by: しまだ | Feb 11, 2013 09:13 PM
「外交はルールに則った喧嘩である」というのが私の持論なんですけれど、そうなると、どんなに対立して喧嘩になっても対話のチャンネルを残すのは「ルール」のうちだと思うんですよね。
「爾後相手にせず」なんて最悪の打ち手です。それをやったら、やった側が悪役になってしまい、後でいろいろとツケを払わされるのは確実でしょうし。
ちなみに A2AD って、新兵器をちらつかせて「我が国はこんなに強いんだぞ」とプロパガンダを展開するところから始まっていると思うのです。イランの「ステルス戦闘機」みたいに、専門誌で盛大に馬鹿にされたのでは逆効果ですけれど。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 12, 2013 03:16 PM
>A2D2
なるほど、中国で言えばミサイルの飽和攻撃をちらつかせているやつですね。
ソ連とか旧共産圏の「聖域」は、オホーツク海にソ連原潜がこもっていられて安心ってやつでちょっと違いますね。今の中国だと渤海湾のようですね。そのうち黄海をそうしたいのではないかと。
#聖域ってサンクチュアリだと思ってたらbastionなんですね。
Posted by: しまだ | Feb 13, 2013 12:54 PM
SSBN の聖域って、要するに他国の潜水艦が入ってこられない場所に立てこもるという意味ですから、まさに bastion なわけです。オホーツク海も白海もそうですよね。ただ、中国は海南島に基地を造っているところからすると、南シナ海に立てこもるつもりかもしれません。
ちなみに、飽和攻撃だけじゃなくて、「新戦闘機」を初めとする各種の「国産新兵器」をちらつかせて、いかにも「スゴイものができたんだぞ」と思わせる宣伝戦を展開するのだって、心理的 A2AD 作戦の一種だと思いますよ。
中国で嫌らしいのは、当局は沈黙していながら、ブツを人目に付くところに出して「人民に勝手に騒がせる」ところですね。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 13, 2013 04:16 PM
渤海湾は浅すぎて戦略原潜潜ませるには向いてなかったかと。渤海湾は昔(春秋戦国期)は今より広いです。北京の南は海がかなり入り込んでいて、天津とかも海の底ですし。黄河はそこに向いて流れ込んでいたみたいです。(今の黄河本流は済水て別の川で、その時の黄河本流は河水と呼ばれる。)
黄河は淮河(黄河と長江の間の大河)とくっついたり(金代から清代後半迄)長江と合流した時期も有ります。
戦国時代の当時の海岸線で中国群雄割拠図見ると中山(華北に有った遊牧民系の国家)て海に近いなとか思ったり。
本題に戻ると中国の戦略原潜の居る場所て南シナ海だろうなと思います。南シナ海と言うと南沙諸島問題が有りますが、あれは資源の問題だけじゃなくて戦略原潜潜ませる先の問題も有るんじゃないかと思ってます。
Posted by: 井上さん二人分の重さの男 | Feb 14, 2013 09:35 PM
ソ聯/ロシアが、オホーツク海を聖域化する観点から千島列島を手放せないのと似てますよね。東シナ海では (中国から見て) 物騒な連中が近すぎるので、近隣諸国のシーパワーが弱体な南シナ海の方が、都合はよさそうです。
Posted by: 井上@Kojii.net | Feb 14, 2013 10:40 PM